白雪姫に極甘な毒リンゴを
ホームルームの時間。
「今から、席替えをするぞ。
黒板に、席の場所を書いてあるから、
箱の中の紙をひいたら、机を動かすように」
先生の話を聞いて、
教室中がザワザワしはじめた。
どこの席になるかな?
桃ちゃんの近くが良いな。
「桃ちゃん、どこの席になった?」
「え? 廊下側の一番後ろ。
クルミは?」
「桃ちゃんの前の席だよ! やった~」
クルミちゃんが飛び跳ねて喜んでいる隣で、
桃ちゃんは優しく微笑んでいた。
神様!
どうか私も、
桃ちゃんの近くにしてください!
思いっきりきつく目をつぶって、
取った一枚の紙。
開いてみると……
1番……
窓側の1番前。
よりにもよって、
桃ちゃんと一番離れた席。
いつもなら
「桃ちゃ~ん、席が離れちゃったよ~」
と言って、
ムササビみたいにももちゃんに
泣きつくところだけど。
桃ちゃんとクルミちゃんが
楽しそうに話しているのをみたら、
足が動かなくなった。
みんなが新しい席の場所に
机を動かし終えた時、
私の隣の席の女の子に話しかける声が
耳に入った。
「俺、この列の一番後ろなんだけど、
席を交換してくれない?
一番前の席じゃないと、黒板が見えなくて」
この声……
七星くんだ……
まさか、
七星くんが隣の席になるなんて思わなくて
胸がドキッとしてしまう。
七星くんへの思いは、
夏休みの間に吹っ切った。
た……多分。
クルミちゃんにフラれたって知った時は
『え?』って思ったけど、
前ほど七星くんのことで
動揺はしなくなったし。
多分だけど、
夏休みの晴れの日は毎日、
紫音くんがバスケを教えてくれていたし、
お兄ちゃんにピタッとヤモリのように
くっついていたからだと思う。
七星くんは、
私の隣に自分の机を移動させ、
優しい声で言った。
「赤城さん、これからよろしくね」
その微笑が、
澄んだ湖のようにキラキラしていて、
少しだけドキッと胸が跳ねた。