白雪姫に極甘な毒リンゴを

 お昼休みを告げるベルが校内に鳴り響き、
 みんなが一斉に動き始めた。


 席替えもしたし、
 桃ちゃんとクルミちゃんの席で、
 お昼を食べることになるよね。


 私が席を立とうとしたその時、
 私の机の前に誰かが立つ気配がした。


 
「りっか~、俺、もうダメかも?」


 ん? 


 紫音くん?


 紫音くんは誰も座っていない
 一人ぼっちの椅子を勝手に持ってくると、
 私の席の目の前に置き、
 私の机に頭を伏せた。


「え? え? 何かあったの?」


「夏休みが終わっちゃったからさ、
 六花と話す時間無くなっちゃったじゃん。
 だからさ、いろいろ溜まっているわけ」


「それって、お姉さんのこと?」


「そう!六花、聞いてくれる?

 昨日さ、
 部活が終わって家に帰ったら、
 家に入れなくてさ」


「鍵がなかったとか?」


「鍵はもってたよ。玄関のカギはあいたわけ。

 それなのに姉貴の奴がさ、
 彼氏を家に連れてきてたみたいで、
 玄関にチェーンを掛けて
 俺が入れないようにしやがった!!

 姉貴に電話したら、なんて言ったと思う?

『2時間くらい、家に帰ってくるな』だぜ。

 その間さ、
 一人寂しくファミレスにいたわけよ」


「それは、ひどすぎだね~」


「だろ? 一颯先輩より鬼だろ?」


 う~ん。


 お兄ちゃんは、
 私を家の外に締め出すことはないか。


 私が優しくうなずくと、
 紫音くんのマシンガントークが
 再び始まった。


 こうなると、
 お姉さんにされたことをしゃべりつくすまで、
 紫音くんの口は止まらなくなる。


 私はいつものように、相槌を打ち続けた。


 やっと、紫音くんの溜まっているものを
 全部吐き出せたのね。


 そのあとはいつも、
 雲一つない青空のように、
 すっきりとした笑顔を私に向けてくれるのに。


 あれ? 


 まだ何か、
 心に突っかかっているものがあるのかな?


 紫音くんはうつむきながら、
 無表情でずっと一点を見つめている。


 そして体中の息をゆっくり吐き出すと、
 いきなりまっすぐな瞳で私を見つめた。
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