白雪姫に極甘な毒リンゴを
次の朝学校に行くと、
ツインテールをゆらゆら揺らして、
クルミちゃんが私のところにかけてきた。
クルミちゃんの極上の笑顔。
『私、いいことがあったんだ!
聞いて! 聞いて!』
って顔に書いてある。
「六花ちゃん、見て見て!
これね、桃ちゃんとお揃いなんだ」
桃ちゃんの手に握られていたのは、
真っ赤な和柄のなコンパクトミラー。
蓋のところに、
金色の龍が描かれている。
え?
女子高生が好きそうなデザインには
見えないけど……
「クルミちゃん、こういうのが好きなの?」
「え? 私じゃないよ。 桃ちゃんだよ。
六花ちゃんって、桃ちゃんと仲がいいから、
てっきり知っているのかと思ってた。
昨日、学校終わりに
二人で買い物に行ったときに、
桃ちゃんが一目ぼれしたから、
お揃いで買ったんだ。
桃ちゃんって、
あの不良が多いことで有名な
笠原中学出身でしょ。
おまけにお兄ちゃんが3人だし。
それでこういう、いかついのが、
好きになったんじゃないかな?」
桃ちゃんって、兄弟がいたんだね。
しらなかった。
そう思うと、
いつも一緒にいてくれた桃ちゃんのこと、
私はほとんど知らない。
どこの中学出身で、どこに住んでいて、
何が好きで何が嫌いか。
だって、桃ちゃんと友達になった時に
言われたから。
『私、自分のことを聞かれるのって
好きじゃないけど、いい?』って。
誰に対しても、
自分のことを語らないんだと思っていた。
でも違ったみたい。
クルミちゃんには話すけど、
私には、話したくなかったんだ。きっと。
「六花ちゃんと桃ちゃんって、
もしかして喧嘩中?」
予想もしていなかった質問に、
急に胸の鼓動が早くなる。
「え? なんで?」
「だって。
『六花ちゃんもお買い物に
誘えばよかったのに』って私が言ったらね、
『六花はちょっと……』って
桃ちゃんが言ったからびっくりしちゃった」
桃ちゃん……
クルミちゃんと二人だけで
買い物に行きたかったってこと?
私が一緒なのが、いやだってこと?
そのとき、
私の後ろからさわやかな声が聞こえた。