白雪姫に極甘な毒リンゴを

 休み時間ごとに、
 桃ちゃんは私の席に来てくれた。


「六花、スルメ食べる?」


「六花、リンゴかじる?」


「六花どうしたの? 
 お腹ががすきすぎて、ご機嫌ななめなの?
 しょうがないな。 一緒に早弁しちゃう?」


 笑顔すら作れない私に、
 気にせず優しく微笑んで話しかけてくれる
 桃ちゃん。
 

 でも昼休みには、
 桃ちゃんは堪忍袋の緒が切れたらしい。


 そりゃそうだよね。


 桃ちゃんと目も合わせず、
 言葉を一言も発しない私。


 なんでいきなり、
 そんな態度とるのって普通は思うよね。


 幼稚なことをしているって
 わかっているのに、
 私はどうしても桃ちゃんに
 笑いかけることができなかった。


「六花さ、言いたいことがあるなら、
 はっきり言ってくれない?」


 今まで聞いたこともないような、
 桃ちゃんの低い声。


 驚いて顔をあげると、
 鋭い瞳が私をにらみつけていた。


「言いたいことなんて……

 特にない……」


「は? あるでしょ?
 私に何か不満があるんでしょ?

 朝からの態度、あれ何?

 『私は一言もしゃべらないから、
 勝手に気づけ!』とでも思っているわけ?」


 高圧的な桃ちゃんの物言いは、
 体中が凍りつくほど怖い。

 
 今まで桃ちゃんは、
 イラッとした相手を
 にらみつけたことがあったけど、
 決して私には、そんな目で見なかった。


 いつもニコニコしていて、
 冗談ぽく私を叱ってくれる、
 頼れるお姉さんって思っていた。


 でももう、違うんだ。


 桃ちゃんの中の私は、
 攻撃してもいい相手になったんだ。


 きっと、私よりもクルミちゃんが
 好きになったから。


 きっと、私のことが大嫌いになったから。


 私は目をつぶって、ゆっくり息をすると、
 貝みたいに固く閉ざしていた口を開いた。
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