白雪姫に極甘な毒リンゴを

 結局試合は、紫音くんのチームの勝利。


 桃ちゃんのお仲間さん達は、
 負けてしょぼくれているかな?と
 思ってコートを見たけど……


 あれ? 


 みんな、いなくない?



 まさか……

 負けたことがショックすぎて、
 ジェット機並みの猛スピードで
 帰っちゃったとか?



「六花、この後はどうする?」


「え……と……
 紫音くんに、ここで待っててって
 言われたから……」


「じゃあ、私はこれで帰……」


「桃華さ~ん!!」


 ドタドタと階段を駆け上がってきた、
 黒ユニフォームの集団。
 

「俺たちを置いて、帰らないで下さいよ」


 筋肉が盛り上がった腕で、
 桃ちゃんの足にしがみついたり、
 洋服をひっぱったり、
 桃ちゃんのカバンに抱き着いたり。


 この方たち……

 桃ちゃんへの距離感、おかしくないかな?


 桃ちゃんは、
 冷酷な瞳で男の子たちをにらみつけると、
 腕と足をぶんぶん振り回した。


 ひゃ~


 しがみついていた男の子たち、
 蹴り飛ばされたんですけど……


「桃華さん、もう一回、
 振り飛ばしてくださいよ~」


 男の子たちは、飛ばされても飛ばされても、
 ゾンビのように立ち上がり、
 桃ちゃんに抱き着きに来た。


「お前らさ、試合に負けた分際で、
 私に甘えんなよ」


 え?


 これって体罰じゃなくて、甘えているの?


「負けは悔しいですよ。そりゃ」


「ケンカしてた頃と同じように、バスケだって、
 ぜってえ負けたくねえって思いで
 やってるんですから、俺ら」


 黒いユニフォームのみなさん。


 明らかに落ち込んでいます。

 
 でも桃ちゃんは、
 傷を刃物でえぐるように、
 冷たい言葉をぶつけた。


「私に応援をさせといて、
 試合に負けるなんて言い度胸してんな。

 なに? 

 私に恥でもかかせたかった?」


 桃ちゃんの言葉に、
 血の気がサーっとひいて、
 青白い顔になっちゃった男の子たち。


 小さく丸まっちゃったし、なんか、
 かわいそうでしかたがない。


「桃ちゃん、そんなきついこと言わなくても。
 みなさん、必死に頑張っていたし。
 負けたって言っても、たった5点差だし」


「六花が隣にいると、調子来るうわ。

 は~。
 みんな、六花に感謝しろよな。
 1回しか言わないからな。

 ケンカをしてた頃より……
 かっこよかった……お前ら」


 桃ちゃんは恥ずかしかったのか、
 伏し目がちに、ぼそりと言った。


 男の子たちの光を失っていた瞳が、
 急にキラキラ輝き始めた。


「桃華さ~ん」


「嬉しいです!!

 もう一回、もう一回だけでいいから
 言ってください」


「調子に乗んな!」


 桃ちゃん!! 男らしいっていうか、
 かっこいい!!

 
 深海まで突き落としておいて、
 一気に褒めるその姿。


 同性なのに、私もキュンと来ちゃった。


 ん? 

 このパターン……

 誰かと似ているような……


 誰かのその姿を見た時も、
 同じようにキュンってしたような……
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