白雪姫に極甘な毒リンゴを


「やっぱり、いい。

 今はまだ、聞かなくていいっつうか、
 聞いちゃダメな気がするし。

 あ、そうそう。
 俺が作ったから、これ、食べて」


 紫音くんはそう言って、
 おしゃべりもせずに
 自分の教室に帰っていった。


 紫音くん、
 無理やり明るく振舞ってくれたみたいだけど、
 大丈夫かな?


 手渡された紙袋の中のぞくと、
 手のひらくらいの大きさの、
 お花の形のクッキーが入っていた。


 袋から取り出そうとしたとき


「ひゃ!!」


 あまりにビックリして、
 心の声が体の外に漏れてしまった。


「赤城さん、どうかした?」


 クッキーを持ったままの私を、
 不思議そうに見つめる
 隣の席の七星くん。


「な……

 なんでもないよ……」


 たぶん、耳まで真っ赤になっているよ、私。

 
 なぜか、
 七星くんにはクッキーを見られたくないって
 思ってしまって、
 急いでクッキーを紙袋にしまった。


 紫音くん……

 反則だよ……


 手作りクッキーにメッセージなんて書かれたら
 ドキドキするに決まっているよ。

 
 チョコペンで書かれた、
 ちょっと不格好の文字。


 『六花 大好き』


 メッセージ付きの手作りクッキーをもらって、
 ものすごく嬉しいはずなのに。


 紫音くんと付き合えば、
 お兄ちゃんの愚痴を聞いてくれて、
 辛いときは優しく慰めてくれるって
 わかっているのに、
 何が引っかかっているんだろう?


 胸につかえたものの
 正体にいまだ気づけなくて、
 紫音くんへの返事を先延ばしにしてるけど、
 これじゃダメだよね。


 紫音くんにも、失礼だよね。

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