白雪姫に極甘な毒リンゴを
六花はこれでもかというくらい
目を見開いて、固まっている。
俺自身、
自分の口から出た言葉を理解するのに、
10秒近くかかった。
「嘘……だよね?」
『ウソに決まってんだろ』って
撤回するなら
今しかないってわかっている。
でも六花への思いで
膨れ上がった俺の感情は、
脳からの冷静な命令なんて無視して、
突っ走りだした。
「嘘じゃねえよ。
お前のことが好きなのに、
その気持ちを抑え込んで
今日まで生きてきたんだよ。
小学生の頃から
『七星が好き』って微笑んでいるお前と
一緒に暮らさなきゃいけない、
俺の辛さがわかるか?
もう俺は、限界なんだよ!
俺以外の男に微笑んでる六花を見るのも。
俺の気持ちをごまかすために、
六花を傷つける言葉を言い続けるのも」
自分の感情を抑え込んでくれていた糸が切れ
六花に思いを伝え終わった時、
すこしだけ冷静さを取り戻した。
六花を見ると、
何も言わずにその場に固まっている。
俺の目をじっと見つめたまま、
大粒の涙をぽろぽろ流して。
お前が何を思って泣いているのか、
俺には全くわからない。
聞こうとも思わない。
でも、
六花が悲しんでいる姿を見ていると、
俺の心が締め付けられる。
泣かせたのは俺だってわかっているのに、
六花を楽にしてやりたいと思う。
俺は穏やかに微笑み、
六花の涙で潤んだ瞳を、優しく見つめた。
「今言ったこと、忘れてくれていいから。
俺が出てくからさ、この家」
言い終わったと同時に、
笑顔を保っていられないほどの悲しみが
押し寄せてきた。
もう、抹消しなくてはいけない。
六花への思いを。
そして、去らなければいけない。
大好きでずっと俺の隣にいてほしかった、
六花のそばを。
気づいたら、
俺の瞳から涙がぽたぽた床に落ちていてた。
そして、六花と目が合ってしまった。
そんな情けない顔を
六花に見られたくなくて、
俺は六花の部屋から逃げ出した。