白雪姫に極甘な毒リンゴを
「親父、ちょっといいか?」
ウサギみたいな真っ赤な目が、
ようやく普段通りに戻ったのを確認して、
俺は親父の部屋のドアをノックした。
「一颯、どうした?
勉強でわからないところでもあったか?って、
一颯がわからないなら、
俺はテキストを見ても解けないな」
アハハと、一人で豪快に笑う親父。
この能天気さに、
俺の心はちょっとだけ軽くなった。
「親父に頼みがある」
「なんだよ、急に。
小遣いの前借りか?
それだったらダメだからな。
お前に渡すと、服買ったり、
ファッション雑誌買いあさったりして、
すぐ使っちゃうだろ?」
「……そんなことじゃない」
俺がこの部屋に入ってきてから、
顔がこわばったままなことに気づいたのか、
親父の声が、急に低く落ち着きを含んだ。
「悪い話か?」
「まあ……多分……」
親父は机に置いてあったコーヒーを
一口飲むと、
真面目な顔で俺をじっと見た。
「一人暮らし……させて欲しい……」
「は? いつから?」
「今すぐにでも」
俺は1分、1秒でも早く、
この家を出ないといけない。
そうしないと六花が、
壊れてしまいそうだから。
「いきなり冗談みたいなこと
言ってんじゃねえよ。
一人暮らしをしたい理由を言え、理由を!」
親父に本当は話したくない。
隠し続けてきた六花への思いも。
俺が自分の気持ちを伝えてしまったことも。
でも今は、
そんなことを言っている場合じゃない。
俺はまだ子供で、
親の承諾なしに部屋を借りられなければ、
一人暮らしをするお金もない。
俺は言われた通り、重い口を開いた。
「もう六花と、一緒の家では暮らせない」
「は? なんでだよ?」
「六花に言っちゃったから。
………好き……だって」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ???」