白雪姫に極甘な毒リンゴを

 夜7時半を回っていた。


 思いっきり走って走って、
 着いたところはお兄ちゃんのバイト先の
 ジェラート屋さん。


 お兄ちゃんが今日、
 シフトに入っているかわからないけど、
 少しでも会える可能性があるならと思って、
 来てしまった。


 遠くの柱の陰に隠れて、
 お店をのぞいてみる。


 お兄ちゃん……

 いなかったか……


 もしお兄ちゃんがいたら、
 なんて声をかければいいかかわからない。


 『夜に一人で出歩くな』って、
 怒鳴られていたかもしれない。


 でも……

 怒鳴ってくれてもいいから……

 お兄ちゃんに会いたかったのに……


 こんなところで涙なんか出したくなくて、
 唇をギュッとかみしめているとき、
 私の後ろから、今、一番聞きたかった声が。


「りっか?」


 振り向くと、
 きょとんとした目のお兄ちゃんが立っていた。


 お兄ちゃんに会いに来たのに、
 目を合わせられない。


 寂しいって伝えたいのに、
 言葉が出てきてくれない。


 お互い無言のまま時間が流れ、
 お兄ちゃんが先に口を開いた。

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