白雪姫に極甘な毒リンゴを
「何をしてんだよ」
「…………買い物」
「は?
こんな夜遅くに出歩くなって、
俺、何度も言ったよな?」
「……うん」
言わされていたってほうが正しいけど。
毎朝、学校に行く前に、
行ってらっしゃいの3か条で。
「で、何を買いに来たんだよ?」
え?
え……と……
どうしよう……
お兄ちゃんに会いに来たなんて言えないよ。
「た……たこ焼き」
お兄ちゃんはこらえ切れなくなったように、
『フッ』と鼻で笑った。
「お前さ、それくらい我慢しろよ。
ま、ちょっと待ってろ」
そういうとお兄ちゃんは、
走ってどこかに行ってしまった。
お兄ちゃん……
笑ってくれた。
私にあきれたような笑い方だった。
それでも久しぶりに見た
お兄ちゃんの笑顔に、
心が温かくなるのを感じた。
そして戻ってきたお兄ちゃんは、
手さげ袋を私につきだした。
「たこ焼き、家に帰ったら食べろよな」
買ってなんて一言も言ってないのに。
きつい言葉の裏側にはっきり見える、
お兄ちゃんの優しさ。
なんで今まで、気づかなかったんだろう。
今は天邪鬼(あまのじゃく)みたいな
お兄ちゃんの優しさが、
こんなに嬉しいのに。
お兄ちゃんのことは、
やっぱりお兄ちゃんとしか思えない。
でも……
お兄ちゃんが家にいてくれないのは、
淋しい。
今すぐにでも、帰ってきてほしい。
そんなワガママ、言っちゃダメだよね?
妹としてお兄ちゃんに甘えたいなんて、
身勝手すぎるよね?