白雪姫に極甘な毒リンゴを

「ありがとう……
 4個も……いいの?」


「いいの。いいの。
 4個じゃなきゃ、意味ないからさ。
 じゃあ、俺、帰るね」


 そう言って七星くんが、
 玄関ドアに手を掛けた。


 そしてそのまま、
 石のように固まった。


「七星くん?」


 私の声に肩をピクつかせ、
 七星くんはもう一度、私の方を見た。


「あのさ……これからなんだけど……

 小学生の時の呼び方で……
 赤城さんのことを呼んでもいい?」


「え?」


「り……りっちゃん……って」



 目の前の七星くんは、
 顔じゅうがリンゴのように赤くなっている。

 
「いい……よ」


「本当に?」


 私の返事を聞いて、
 はじけるような笑顔の七星くん。


 その笑顔は反則だよ。


 そんな無邪気な子供みたいな笑顔を
 見せられたら、
 七星くんを好きな気持ちが、
 止められなくなっちゃうよ。


 七星くんの隣には、
 いつもクルミちゃんがいるのに……


 片思い歴5年。


 気になり始めた頃からで言うと8年も、
 七星くんのことを見てきた。


 私なんてブサイクで、ダサくて、
 男の子みんなから
 気持ち悪がられているのもわかっている。


 恋なんかしても、
 誰にも相手にされるわけないって
 わかっている。


 でも……


 本当は聞きたい。


 クルミちゃんは彼女なのって?


 七星くんは、
 クルミちゃんのことが好きなのって?


 こんな私にも、可能性はあるのって?


 七星くんに好きになってもらえる……
 可能性……

  

「りっちゃん、また明日ね」


 そう言って七星くんは、
 私にはもったいないくらいの
 笑顔を向けてくれた。


 私はどんな顔を
 七星くんに向けたらいいかわからなくて、
 うつむいたまま、うなずいた。


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