白雪姫に極甘な毒リンゴを


 午前中の授業が終わったことを
 知らせるベルが  
 学校中に鳴り響いている。


 私はカバンからお弁当を取り出すと、
 中庭に向かって走り出した。


 夏の間は暑すぎるせいか、
 クーラーがガンガンに効いた
 体育館のステージの上で、
 女子たちに囲まれてお弁当を食べていた
 お兄ちゃん。


 10月に入り、
 日差しも柔らかく照らしてくれるようになって、
 また中庭でお昼を食べだしたみたい。


 外に出ると、
 女子の集団から少し離れた木の陰に隠れ、
 ひょっこりと顔だけ出してみた。


 お兄ちゃんにお弁当を届けるなんて、
 たこ焼き事件以来だ。


 あの時は
 たこ焼き弁当なんていらないって怒鳴られて、
 カラスに向かってたこ焼きを
 突き出したんだっけ。


 あの頃は、
 お兄ちゃんが悪魔みたいに怖くて怖くて、
 大嫌いな存在だった。


 お兄ちゃんなんかと、
 離れて暮らしたいって懇願していた。


 それなのに今は、
 家を出て行ってしまったお兄ちゃんに、
 戻ってきてほしいなって思ってしまう。


 お兄ちゃんとして、
 そばにいて欲しいなって。


 そうだった。


 お兄ちゃんに、
 早くお弁当を届けてあげなきゃ。


 木の陰から、
 女子に囲まれているだろうお兄ちゃんの方に
 向かって歩き始めたけど、
 いきなり違和感に襲われた。


 キャピキャピ楽しそうな声を
 想像していたのに、
 聞こえてくるのは、
 すすり泣く声や悲鳴。怒号。


 お姉さま方、何に泣いているのだろう?


 何怒っているのだろう?


「なんで、いきなり転校なの?」


「聞いてないよ!」


「一颯くん、ひどいよ!!」


 え……


 お兄ちゃんが……


 転校?
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