白雪姫に極甘な毒リンゴを
そんなはずないよ!!
だってお兄ちゃん、
そんなこと一言も言ってなかったもん。
それに今日から、この学園の寮に入るって。
泣きわめく30人くらいの女子たちを、
必死でなだめている十環先輩。
十環先輩が私に気づき、
私のところにやってきた。
「本当ですか?
お兄ちゃんが……転校って?」
「やっぱり、
りっちゃんにも言わずに行っちゃんたんだね。
一颯は」
「転校先ってどこの高校ですか?」
「それがね、俺にも教えてくれなかったんだ。
さすがに凹んだよ。
俺にはさ、言ってくれると思っていたからね」
こんな時でも、
必死に笑顔を作ろうとする十環先輩。
「りっちゃん、知ってた?
一颯って、甘いものが大好きなんだよ」
「え?」
そんなことはない。
お兄ちゃんは子供の頃から、
甘いものなんて大嫌いで、
一切口にしなかったもん。
「お兄ちゃんは、
甘いものなんて食べられませんよ。
抹茶系のお菓子は、唯一好きですけど」
「それって、
りっちゃんのために一颯がついていた、
嘘だからね」
「そ……そんなことは……」
「りっちゃん、
チョコケーキと抹茶ケーキのどっちにするって
聞かれたことない?
子供の時にさ」
それって確か、お母さんが亡くなって、
数か月後くらいかな?
その時にお兄ちゃんが、
『抹茶がいい』って言ったような……
「本当はね、
一颯はチョコとか甘いものが大好きなの。
それと、抹茶は苦いから、
本当は苦手なんだって。
子供の時に、
りっちゃんにチョコケーキを食べさせたいから
嘘をついて、
今まで嘘をつきとおしてきたんだよ。
一颯はさ、本当に好きなんだよ。
りっちゃんのことがさ」
「でも私……
お兄ちゃんのことを、
そういう風な目で見られないっていうか……
お兄ちゃんはやっぱり、お兄ちゃんで……」
「そうだよね。
りっちゃんが2歳の時から、
兄妹なんだもんね」
「……はい」
「一颯の部屋のクローゼットにね、
青い箱と赤い箱が置いてあると思うんだ。
りっちゃんお願い。
その箱の中、見てみて」
「何が入っているんですか?」
「それは、俺の口からは言えない。
でも、絶対にりっちゃんに見て欲しいんだ。
お願い」
十環先輩は、悲しみを含んだ瞳で微笑むと、
お兄ちゃんがいなくなったことに
悲しんでいる女の子たちを慰めるため、
戻っていった。