白雪姫に極甘な毒リンゴを
学校が終わり、
心の中のざわつきをごまかしながら
家まで帰った。
お兄ちゃんが私のことを好きって
思っていてくれていたことは、素直に嬉しい。
でも……
男として
お兄ちゃんを好きになることなんてできない。
そう思うたびに、
チクチクと心に針が刺さったように痛みだす。
どうしてこんなに苦しい気持ちになるの?
お兄ちゃんのことを考えるだけで、
鼓動がどんどん早くなって、
息をするのが苦しくなるの?
わからない。
自分の心の中のはずなのに、
どうしてこんなに苦しいのかわからない。
お兄ちゃんのことを考えている間に、
いつの間にか家についた。
昼休みに十環先輩にお願いされたことが
頭をグルグル回っていて、
自分の部屋にカバンを置くと、
そのままお兄ちゃんの部屋の前に向かった。
お兄ちゃんの部屋のドアノブに
手をかけようとしたけど、
その瞬間に脳裏にはっきり浮かび上がった
過去の記憶。
どうしても、この部屋には入れない。
だってここは、お母さんが倒れた部屋だから。
この部屋に来ると、
私のワガママのせいで、
お母さんが死んじゃった事実を突きつけられる。
どうしても部屋に入る勇気がなく、
その場にしゃがみ込んだとき、
ドアノブに手が引っかかって、
ドアが少しだけ空いてしまった。
ここから逃げ出したいと思うのに、
ドアの隙間から見える
お兄ちゃんの部屋が目に飛び込んできたとき、
そのまま動けなくなってしまった。
お兄ちゃんの机の上にも本棚にも……
物が一つもない……
まるで吸い込まれるように、
私はお兄ちゃんの部屋に入った。
お母さんのことなど忘れて。