白雪姫に極甘な毒リンゴを

 まずは赤い箱。


 箱のふたを開けると、
 見覚えがあるものがパンパンに詰まっていた。


 私が子供の時に、
 お兄ちゃんにあげたものばっかり。


 私が描いたお兄ちゃんの似顔絵。


 お兄ちゃんに描いた手紙。


 お兄ちゃんの誕生日にあげた
 ビーズのネックレスや、練り消し、
 紙コップに顔を描いたお兄ちゃん人形など、
 こんなものまで?って思うものも入っていた。


 入っていた写真に目をやる。

 お母さんと、お兄ちゃんと私の3人で、
 縁側で日向ぼっこをしながら笑いあっている。


 あ……


 お兄ちゃん、
 満面の笑みでにチョコパイを頬張っている。


 小さい時の記憶すぎて、
 覚えていなかったけど、
 お母さんが生きていたころは、
 お兄ちゃんは甘いものが大好きだったんだ。


 私のために、
 甘いものが嫌いって
 嘘をつき通してくれたんだ。


 悪魔みたいに
 私にきつい態度をとっていた裏側に、
 こんな優しさを隠していたなんて……


 そんなこと、気づかないよ……


 お兄ちゃんを悪魔にさせてしまったのが
 自分のせいだと思うと、
 心が締め付けられて苦しくなる。


 私は写真を赤い箱の中に戻すと、
 今度はミカンが入った段ボールくらいの
 大きさの箱のふたに手をかけた。


 これらは一体……


 なに?


 まるで、
 サンタさんが子供たちに配るおもちゃを
 隠してあるかのように、
 プレゼントラッピングされたものが、
 9個入っていた。


 一番上に置かれた、
 真っ白な袋に赤いリボンがかかったものを
 手に取る。


 その瞬間、私の体は硬直してしまった。
 

 袋に貼られた金色のシールに、
 黒いマジックで書かれた文字。


 『HAPPY BIRTHDAY 六花』


 私への、誕生日プレゼント?


 『六花に誕生日プレゼントなんか、
 あげる気ないし』って、
 そっけないお兄ちゃんだったけど、
 本当は、毎年用意してくれていたんだ。


 一つだけ、袋を開けてみることにした。


 これは……


 手作り?


 お兄ちゃんが作った? 


 そ、そんなはずないよね?


 入っていたのは、真っ白なワンピース。


 ノースリーブで、
 首元が緩やかカーブを描いている。


 腰あたりに長いリボンがついていて、
 ウエストを絞れるようになっている。


 一見、買ったものって思えちゃうけど、
 縫い目を見てはっきりわかった。


 これ、ミシンじゃない。 

 手縫いだって。


 ひざ辺りでふんわり揺れそうな
 ワンピースの裾には、
 小さなリンゴの刺繍が、
 一周ぐるりと施されていた。

 
 お兄ちゃんが、
 誰かに頼んで作ってもらったのかな?


 その辺はわからない。 


 でも、
 こんなにかわいいワンピースを
 用意してくれていたなんて、
 涙が出そうになるほど嬉しい!!!


 私はそのワンピースをハンガーに通すと、
 お兄ちゃんの制服の隣に掛けた。
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