白雪姫に極甘な毒リンゴを
七星くんの家の玄関チャイムのボタンを押して
ドアの前に立っている間も、
私の胸のドキドキが止まらない。
ゆっくりと開いたドアの先に、
驚いた顔の七星くんが立っていた。
「赤城さん? どうかした?」
「七星くん、このお守りって覚えている?」
家から必死に走ってきたせいで、
まだ呼吸も乱れながら、
私は七星くんの目の前に
ドット柄のお守りを差し出した。
「え……と……
覚えてないというか……
知らないというか……」
首をかしげて、困惑気味の七星くん。
「お母さんが亡くなった後に、
七星くんが手渡してくれたんだよ、教室で。
青い封筒に入っていた」
七星くんは斜め上を見ながら、
瞬きをして、また私の方をみて微笑んだ。
「それって、小1の時でしょ?
確かに渡したよ。青い封筒。
だって、
赤城さんのランドセルから落ちたから」
え?
私のランドセルに入っていた
青い封筒が落ちて、
それを七星くんが
拾ってくれただけだったの?
ずっと勘違いしていた。
不格好だけど、
一生懸命作ってくれたのがわかる
このお守りは、
七星くんが私を元気づけるために
作ってくれたものだって。
でも、違ったんだ。
本当は、お兄ちゃんが私に
作ってくれたものだったんだ。
「俺、
一颯先輩と赤城さんの血が
つながってないって知っていたよ。
小1の頃から」
「え?」
「母さんが父さんに話しているのを、
聞いちゃったんだ。
でもそれだけじゃない。知っていたのは」
「何?」
「一颯先輩が好きだってことも知っていた。
赤城さんのこと。
多分、一颯先輩が小6の時には、
もう、赤城さんのことが好きだったと思う」
え?
お兄ちゃんが小6って言ったら、
私は小4でしょ?
私が七星くんに片思いをする前から、
お兄ちゃんは私のことが好きだったってこと?
「俺さ、一颯先輩が小学校を卒業する直前に
言われたから。
六花のこと、よろしくって。
それまではね、
学校ですれ違っても睨まれていたんだよ、
一颯先輩に。
それなのに、その時だけは切なそうな顔で
俺に微笑んだからさ。
よっぽど赤城さんのことが、
大好きなんだなって思った」
そうだったんだ……
お兄ちゃん、そんな前から、
私のことを気にかけてくれていたんだ。
「七星くん、教えてくれてありがとう」
私が帰ろうと振り向いたとき、
あわてたような七星くんの声が玄関に響いた。
「赤城さん!!」
「え?」
「前みたいに呼んでもいい?
……りっちゃんって……」
「うん」
私はとびきりの笑顔でそう微笑むと、
また家に向かって走り出した。