白雪姫に極甘な毒リンゴを
お兄ちゃんに会いたい!
どうしても会いたい!
家に帰ってしばらくして、
お父さんが家に帰ってきた。
「りっちゃん~!! ただいま~~!!」
相変わらず、
高1の娘に抱き着くお父さん。
はじけたテンションのお父さんと対照的に、
私は笑顔を全く見せず、低い声で言った。
「なんで、教えてくれなかったの?」
私のいつもと違う声にビックリしてか、
いきなり体を離したお父さん。
洗面所に逃げ込むようなそぶりを
見逃さなかった私は、
お父さんの前に回り込んだ。
「お父さんは知っていたんでしょ?
お兄ちゃんが転校するって。
この家を出て新しい高校の寮に入るって。
なんで教えてくれなかったの?」
「それは……
一颯にお願いされたから。
りっちゃんには言わないでって」
「じゃあ、教えて。
お兄ちゃんが新しく入った高校」
「りっちゃん、聞いてどうするの?」
「会いに行くの。お兄ちゃんに。
それでお願いする。
このお家に帰ってきてって」
お父さんはうつむきながら頭に手を当て、
ゆっくりと息を吐くと、
私の瞳をまっすぐ見つめ、真剣な顔で言った。
「りっちゃんはどうなの?
一颯のこと」
え?
「言われたんでしょ? 好きだって」
お父さんの言葉に、
あたふたと目が泳いでしまう。
知っていたんだ。
お兄ちゃんが私に、
好きって言ってくれたこと。
どうなのと聞かれても、
こう答えるしかない。
今の私の、正直な思いだから。
「お兄ちゃんのことは……
やっぱりお兄ちゃんとしか思えない……」
「だよな。
だったら一颯のこと、
そっとしておいてやって。
あいつだって辛いみたいだからさ。
この家にいるのが」
お父さんは私の頭を優しくポンポンとすると、
私をなだめるかのように優しく微笑んで、
2階に上がっていった。