白雪姫に極甘な毒リンゴを

 いつの間にか季節が進み、
 街はクリスマスムード一色。


 転校先の高校での俺の隣には、
 いつも茜がいる。


 学校に行く時も、昼休みも、帰る時も。


 茜が俺の隣で
 無邪気に笑っていてくれると、
 俺は忘れられるんだ。

 六花のことを。


 学校帰り、
 茜の家まで送るために二人で歩いていた時、
 いつものはじけるような笑顔とは違う、
 真剣な顔で茜が話しかけてきた。


「一颯……

 クリスマスは……

 どうするの?」


 え?


 クリスマスか……。 

 そういえばもうすぐだな。


 去年のクリスマスは、
 六花が鳥の足をドドーンと買ってきたけど、
 「どう料理していいかわからない」って
 涙目になるから、
 俺がスマホで料理のしかたを調べたんだっけ。


 クリスマスケーキだよって言いながら
 俺の前に出されたのは、
 苦みマックスの抹茶ケーキ。


 俺だけのために、
 手のひらサイズのケーキを
 六花が焼いてくれた。


 本音を言うと、六花と親父が食べている、
 イチゴの生クリームケーキが良かったけど、
 苦手な抹茶も、六花が作ると
 最高に美味しく感じてしまう自分がいた。


 今年のクリスマスは……


 六花は、紫音か七星と過ごすんだろうな。


 大好きな人のために、
 クリスマスケーキを焼いてやるんだろうな。


 六花と離れて2か月も経つのに、
 ふとしたことで六花を思い出してしまう
 自分がいる。


 もう、大丈夫だって思っていたのに。


 六花が他の奴と付き合っていても、
 そいつの隣で六花が微笑んでいたとしても、
 俺はもう平気だって思っていたのに。


「一颯?」


 心配そうな瞳で俺を見つめる茜。


 俺はあわてて、頭の中から六花を追い払った。
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