白雪姫に極甘な毒リンゴを
お昼休みを告げるチャイムが鳴って、
いつものように桃ちゃんのところに行った。
「六花、お昼食べよ。
今日の六花のお昼は、何かな?」
私の気持ちを上げるため、
最近の桃ちゃんはテンションが高い。
それと対照的に私は、桃ちゃんの前でも、
うまく笑えなくなってしまった。
「りっか、またお昼はリンゴだけ?」
「……うん。食欲ないし」
「最近の六花、やせすぎだよ。
朝と夜は、
しっかり食べているんでしょうね?」
私はうつろげな瞳で、首を横に振った。
「朝も夜も……スープだけだよ」
桃ちゃんはもう我慢ができないといった感じで、
いきなり両手で、机をたたいた。
『バシン!』という音が、
教室中に響き渡った。
「何やってんのよ、六花!
自分でもわかっているんでしょ!
食べなきゃダメってことくらい!」
わかっているよ。
でも……でも……
どうしても、
食べ物が喉を通ってくれないんだもん。
お兄ちゃんに会いたくて、会いたくて、
どうしても会いたくて。
お兄ちゃんのことを考えるだけで、
息がうまく吸えないくらい、
胸がしめつけられて苦しくなるんだもん。
わたしだって、
どうすればいいのかわからないんだもん。
私はこの2か月間、
桃ちゃんにさえ言えなかった思いを、
ぼそりと口にした。
「……会いたいの」
「え?」
「どうしても会いたいの。
会いたくて、会いたくてしかたがないの。
お兄ちゃんに……」
椅子に座りながら、
スカートの裾をぎゅーッと握りしめた。
涙が流れないように。
それなのに、
お兄ちゃんへの思いがあふれ出したとたん、
涙もとめどなく流れてきて、
ぽたぽたとスカートを濡らしていく。
桃ちゃんは
ハッとした表情をしたかと思うと、
椅子に座っている私を
ぎゅーッと抱きしめた。
「六花、なんで今まで言ってくれなかったの?
なんで辛い気持ちを、一人で抱え込むのよ。
なんのために私がいると思ってんの?
六花を笑顔にするためだからね。
だから……頼ってよ ……私を」
桃ちゃんも
ヒックヒックと鼻をすすりだした。
そして桃ちゃんに強く抱きしめられながら、
教室の片隅で、二人で泣いた。
そして、
周りの目なんか気にせず泣きはらした後、
すっきりした顔で笑いあった。
「六花、私が一颯先輩を探してあげる。
知ってるでしょ?
私の中学の時の仲間。
あいつらにお願いすれば、
見つけるのなんてすぐよ、きっと」
「桃ちゃん、中学の時のお仲間さんに、
頭を下げられるの?」
「六花のためならね。
……と言いたいところだけど、
頭を下げるのは私のプライド的に無理かな。
餌をつるして、
馬のように走り回らせるから安心して」
餌って何だろう……
あのお仲間さんたちが
欲しがりそうなものといったら、
桃ちゃんの制服姿の写真かな?
着物姿の写真でも喜びそう。