白雪姫に極甘な毒リンゴを

「お兄ちゃん!!」


 私の声に気づき、
 目をこれでもかというほど開き、
 驚きを隠せない表情のお兄ちゃん。


「りっか……

 お前……」


「届けに来たよ。クリスマスケーキ」


 嫌われたくなくて、拒絶されたくなくて。


 必死に笑顔を作ってみた。


「なんで……

 俺の居場所が分かったんだよ?」


「桃ちゃんと紫音くんがね、
 一生懸命探してくれたんだよ。

 あ、お兄ちゃん安心して。

 今年のケーキは、
 イチゴのショートケーキにしたから。

 お兄ちゃんの好きな、たこ焼きもあるよ」


「いらない」


「え?」


「だからさ、ケーキもたこ焼きも、
 いらないって言ってんの。
 持って帰れよ」


 お兄ちゃんどうして?


 どうしてそんなに、
 きつい言い方をするの?


 もう私のことなんか……

 嫌いになっちゃった?


 一生懸命、
 笑顔を作ってお兄ちゃんに話しかけていたけど
 もう限界。


 でも、絶対に泣きたくない。


 せっかく会えたお兄ちゃんに、
 少しでもかわいいって思ってもらいたいから
 笑顔でいようと思ったのに、
 今すぐにでも涙が出そうなくらい、
 私の心がヒクヒクし始めた。


 唇をギュッとかみしめ、
 涙をこらえながら言った。


「お兄ちゃんが食べてくれないなら、
 カラスにあげちゃうんだから」


「カラスにあげるくらいなら、
 七星にでもあげればいいだろ。

 あの時みたいに。

 俺、もう行くからな。

 クリスマスなのに、
 彼女を待たせたくないし」


 冷血な瞳で私を見つめると、
 兄ちゃんは私を置いて行ってしまった。


 『彼女を待たせたくないし』


 お兄ちゃんが最後に言い放った言葉が、
 私の頭の中を、グルグル回り続けている。


 そっかぁ……


 お兄ちゃん……


 彼女ができたんだ……


 私はなんてバカだったんだろう。


 あれだけ私のことを好きって言ってくれた
 お兄ちゃんが、
 他の人を好きになるなんてきっとないって、
 心の片隅で思っていた。


 きっと私がケーキとたこ焼きを届けたら、
 『ありがとう』って微笑んでくれるって。


 それなのに……


 お兄ちゃんはもう、新しい恋を始めていて、
 私の居場所だと思っていた
 お兄ちゃんの心の中は、
 もう他の誰かで埋められていたんだ。


 帰ろう……


 お家に帰ろう……


 お兄ちゃんとの思い出ばかりが詰まっていて、
 淋しくて泣きたくなってしまうあのお家に、
 帰ろう。


 でも次の瞬間、
 心の隅の隅で、必死に声を張り上げて
 泣いている自分の声が聞こえた。


 『まだ、
 一番大事なことを伝えてないでしょ。

  お兄ちゃんが、大好きだって』


 そんな素直な自分の心の声に気づき、
 傍にあった電柱にもたれかかった。


 そして
 お兄ちゃんがデートから帰ってくるまで、
 待っていようと決めた。

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