白雪姫に極甘な毒リンゴを
茜さんと別れて、今すぐ私のところに来てって
言いたかったけど
ムリだ……
私に対しても、あんなに優しくて、
自分の手袋を貸してくれたり、
温かい飲み物まで買いに行ってくれる人だよ。
もっと嫌な女の子が
お兄ちゃんの彼女だったら良かったのに……
そしたら私も、
お兄ちゃんが私のところに来てくれるように、
声を張り上げてでも、
お兄ちゃんにお願いしたのに。
「茜が戻ってきたら、駅まで送ってやるから。
帰れよ。
っていうか、お前は良いのかよ。
クリスマスなのに、こんなところにいて。
七星か紫音のどっちかと、
付き合ってるんだろ?」
「……ない」
「は?」
「誰とも付き合ってないよ。
お兄ちゃんが家を出てすぐに、
ちゃんと断ったから」
お兄ちゃんは無言のまま。
私もお兄ちゃんの顔なんて見られなくて、
うつむくとこしかできない。
そんな中、柔らかい声が優しく耳に届いた。
「紫音か七星なら、
六花のこと大事にしてくれると思う。
今からでも遅くないから。
どっちが好きか、もう一度考えてやれば」
なによそれ!
妹想いの優しいお兄ちゃんぶるような
言い方をして!
私だって、
ずっと七星くんが好きだったんだよ。
5年間も片思いをしていたんだよ。
紫音くんだって、
女子からキャーキャー言われるくらい
かっこよくて、
私が辛いときは、慰めてくれて。
二人とも、
私にはもったいないくらいの人だって
わかっている。
でも、それでも傍にいて欲しいと思うのは、
紫音くんでも、七星くんでもなくて、
お兄ちゃんなんだから!
そう私に思わせたのは、
お兄ちゃんなんだから!
怒りに近いものが、私の体中を駆け巡る中、
言わないでおこうと思っていた言葉が
ポロリと口からこぼれてしまった。