白雪姫に極甘な毒リンゴを

「だって六花の奴さ……
 かわいいじゃん……」


 俺が急に、
 素直な子供みたいなこと言っちゃったから、
 十環は一瞬、目を見開いた。


 でもすぐに、
 いつもの穏やかな笑顔を俺に向けた。


「だね。
 りっちゃんって、
 笑うと天使みたいにかわいいよね」


 六花の笑顔が天使かぁ……


 その言葉、よくわかる。


 俺なんて、
 一番近くで六花のことを見てきたんだから。


「一颯さ、
 りっちゃんに『かわいい』って
 言ってあげればいいじゃん」


「ムリ!」


「なんで?」


「俺がそんなこと言ったら、
 六花の奴、俺を見て微笑むだろ?

 六花が俺に笑いかけてきたら、
 俺、抑えられなくなるから。

 六花のことが大好きって思いがさ……」


 俺は今まで、
 誰にも言えずに心の奥に抑え込んできた物を
 初めて吐き出した。


「じゃあ一颯、
 なんで赤城家の呪いなんて
 言い伝えを作ったわけ?
 それって矛盾してない?

 外で可愛くされるのが嫌なのはわかるよ。

 でもさ、家でかわいい格好されたら、
 りっちゃんへの気持ちが
 抑えられなくなったりするんじゃないの?」


 十環の奴、
 のほほんと生きているようで、
 意外と鋭いところを突っ込んでくるな。


「それはさ……
 六花が小5の時に、
 母さんが亡くなったのは自分のせいって
 まだ泣くことがあったから。

 お前のせいじゃないって思わせたくて、
 この家に伝わる呪いのせいだって
 言っちゃったんだよ。

 ちょうどその頃にさ、
 六花が七星のことを気になっているって
 感じだったから、
 かわいい格好でいるのは、
 俺の前だけにさせたくて……

 まさか俺も、
 ここまで六花のこと大好きになるなんて、
 思わなかったからさ……」


「呪いとかを信じちゃう、
 りっちゃんもりっちゃんだね。

 天然と言うか……純粋と言うか……」
 

 確かに……


 六花はどこかずれている。

 
 今日だってそうだ。

 
 普通はしない。


 つま楊枝にたこ焼きを刺して、
 カラスに食べさせようとするなんて。

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