白雪姫に極甘な毒リンゴを
「もしもし、あ、一颯?」
電話をかけてすぐに、
十環が出たことにビックリしすぎて、
言葉に詰まる。
「どうした?
一颯が電話くれるなんて、何かあった?」
さすが十環だな。
付き合いなんて、
中学3年の時からだから
3年くらいしかないのに、
幼馴染みくらい、
俺の波長を読み取ってくれる。
「俺さ……
新しい高校で……彼女ができた」
「え?」
十環の奴、『え?』ってなんだよ。
そこは『良かったね』って
喜んでくれるところじゃないのかよ。
「彼女さ、茜って言うんだけど、
俺と同じクラスで、結構良い奴でさ。
茜がいてくれれば、
六花のことを忘れられると思う」
5秒くらい無言のあと、
やっと十環の声が電話越しに届いた。
「そっかぁ。
一颯がそれで幸せなら、いいと思うよ。
だって一颯も、
結愛さんのことを引きずり続けている俺に、
言いたいことが山ほどあったでしょ?
それでも、
俺がやりたいようにって
見守っていてくれていたよね。
そのこと、
すっごく感謝しているからさ、俺」
「なんだよ。
こっちが恥ずかしくなるようなことを
言うなよ、十環」
「アハハ。 ごめんごめん。
でもさ、俺は一颯みたいになれないかも。
本当は一颯に言いたいこと、山ほどある」
「なんだよ、言いたいことって。
いつもみたいにズバズバ言えよ」
「りっちゃんが
告白しに行ったんじゃないの?
一颯のところに」
「お前……知っていたのか?」
「桃ちゃんから聞いた。
それで一颯は、断ったってことだよね」
「ああ」
「なんで?
りっちゃんのこと、
あんなに好きだったじゃん。
そのりっちゃんが、
七星くんや紫音くんを振ってまで、
一颯が良いって言っているんだよ。
もう好きじゃなくなっちゃったの?
りっちゃんのことが」
好きに決まってんじゃん。
こんなに離れていたって、
忘れられないくらい大好きに
決まってるじゃん、六花のこと。
でも……
それでも俺は、
茜と一緒にいるって決めた。
茜となら、
こんなに苦しい気持ちにならなくて済む。
相手を俺の嫉妬で傷つけて、
束縛してしまうような、
そんな情けない俺にならなくて済む。