白雪姫に極甘な毒リンゴを
「茜は、すっげーいい女だよ。
俺の心を軽くしてくれるっていうか、
尊敬できるっていうか」
「そっか……。
ごめんごめん。
俺、どうかしていたよ。
一颯がその子を選んだんだもんね。
俺がとやかく言う問題じゃないもんね。
でもさ……」
俺の心を傷つけないように、
柔らかい口調だったのが、
いきなり真剣な声に変った。
「りっちゃんね、北海道に行っちゃうんだよ。
年明けに」
は?
北海道って、
春香おばさんについて行くってことか?
「嘘……だよな?
だって前に北海道に行くって言ってたけど、
辞めたじゃん。
それに、
桃ちゃんが何としてでも阻止するだろ?
六花が北海道に行くって言ったら」
「桃ちゃんはね、
『りっちゃんが北海道に行くのが一番いい』
って思ったみたいだよ」
「なんでだよ。
前の時は、
刑務所に入ってでも絶対に阻止するって、
俺に決闘を申し込んできたのに」
「りっちゃんと会った時に思わなかった?
すごい痩せたなって」
思ったよ。
あれは痩せたって女子が喜ぶレベルを
通り越していて、ガリガリだったし。
「りっちゃんね、一颯に会えないのが辛くて、
ご飯をまともに食べられなくなっちゃったの。
学校でも、
ほとんど笑わなくなっちゃったんだって。
桃ちゃんの前でもだよ。
だから、北海道に行かせてあげれば、
りっちゃんが元気になるって思ったみたい。
でも桃ちゃんね、
知り合いに片っ端から頼み込んで、
一颯の居場所を探してもらっていたんだよ。
りっちゃんのもとに、
一颯が帰ってきてくれれば、
北海道にいかなくても元気になるかもって、
願いを託してね」
「でも俺……」
「一颯、
りっちゃんを忘れるための恋なんて、
結局辛いだけだよ。
俺なんて、結愛さんへの思いを忘れるために、
女の子と楽しくおしゃべりしていたんだから。
その時はさ、忘れられるんだよ。
でも結局、
そんなんじゃ何も解決してくれない。
時間だって同じ。
ただ時が過ぎるだけじゃ、
大好きな人のことなんて忘れられない。
俺も、一颯も、
思っている相手への愛が深すぎだからね。
そんなこと、
隣で俺のことを
ずっと見守っていてくれた一颯なら、
わかるでしょ?」
痛いほどわかる。
ずっと大好きな人を思い続けて、
でも自分の物になれない悔しさを抱えた十環を
俺は一番近くて見てきたんだから。
俺だって、本当はわかっているんだ。
茜と一緒にいるのは、こんなに楽しいのに、
六花への思いなんて、
一時的に忘れさせてくれるのに。
明るくて、誰にでも優しくて、
自分よりも他人のためにお世話をやく
茜みたいな女性は、
心から尊敬できるって本気で思うのに。
毎日、この寮に帰ってきて思い出すのは、
直前まで俺の隣で微笑んでくれた茜じゃない。
六花だって。