白雪姫に極甘な毒リンゴを
ごんぞうを思いっきり抱きしめたくて、
部屋を見まわしたとき、
クリスマスカラーの紙袋が目に入った。
六花が作ってくれた、
たこ焼きとケーキが入っている。
中も見ずに、
このまま捨ててしまおうって思った。
ちょっとでも中をのぞいたら、
もう、後戻りできないような気持が
あふれ出てきそうで、怖かった。
でも……
こんな真冬の寒い外で、
5時間近くも俺を待っていてくれた
六花を思い出すと、
捨てるなんてできなかった。
透明なプラスチックに並んだ、
大きさがバラバラなたこ焼き。
つまようじで刺して、
口の中に押し込んでみた。
思い出した。
俺……六花のたこ焼きが、
大好きでしょうがなかったんだ。
冷え切ったたこ焼きなのに、
今まで食べたたこ焼きの中で、
ダントツに美味しく感じてしまうの
はなぜだろう。
そして俺は、
たこ焼きのパックを机に置いて、
今度はケーキの箱を取り出した。
蓋を開けると、
両手に乗るくらいの
丸い2段のケーキが入っていた。
「今年は抹茶じゃないのかよ」
勝手に笑いが込み上げてきて、
独り言までつぶやいてしまった。
真っ白な生クリームの上に、
真っ赤なイチゴが4つ乗っていた。
そしてイチゴに立てかけるように、
横長の真っ白な板チョコが飾られていた。
そこにチョコペンで書いてあるメッセージ。
『大好きです』
たった5文字。
これだけなのに、
体が震えるほど嬉しくてしょうがない。
俺はスプーンでケーキをすくうと、
ゆっくりと口に運んだ。
俺の大好きな甘さで、自然と涙が出てくる。
初めて食べた。
六花が作った抹茶以外のケーキ。
もっと早く打ち明けていたら、
毎年クリスマスには、同じケーキを頬張って、
二人で「おいしいね」って
笑いあえていたのかな。