白雪姫に極甘な毒リンゴを

「でも、本当にキツイ。

 六花がさ、家の中だとメガネとって、
 髪をおろして、赤いワンピを着ているわけよ。

 それで、俺のために料理作ってくれたり
 してるんだぜ。

 不意に『六花のこと抱きしめたい!!』って
 思っちゃう瞬間が、多々あるわけよ。


 だから六花にブスとかバカとか
 ひどいこと言って、
 六花をなるべく
 笑顔にさせないようにしてんの」


 十環には、
 俺が六花をイジメる気持ちが、
 まだ理解できないらしい。


 でも、ローテーブルに頬づえをついて、
 一応理解しようと頑張ってくれている
 みたいだけど。


「べつに、
 一颯がりっちゃんを好きになるのって、
 なんの問題もないじゃん。

 血がつながってないんだから」


 そう。
 十環の言う通り。


 俺と六花は、本当の兄弟じゃない。


 俺が4歳、六花が2歳の時に、
 俺の親父と、六花の母さんが再婚した。


 でも……無理なんだよ……


 六花と付き合うことは……


「六花とは付き合えない。
 俺、約束しちゃったから。
 その約束、破るわけにはいかないから」


「約束って?」


「ごめん……
 十環にも、まだ話す勇気ない……」


「ま、いいよ。
 それより一颯、
 いつまで亀みたいに布団に
 くるまっているわけ?」


「十環に話したら、
 余計出られなくなったじゃん!!!」


 俺の言葉を聞いて、
 俺のことをよく知っている十環が、
 あるものを出してきた。


「ほれ!ほれ! 
 一颯の好きなチョコパイだよ!」


 なんだよそれ! 


 俺は食べ物につられるほど
 お子ちゃまじゃないぞ。


 そう思っているのに、
 十環がチョコパイを左右に揺らすたび、
 俺の目は甘い獲物を追いかけている。


「ほい!」


 し……しまった!!


 十環がチョコパイを投げた瞬間、
 布団から滑り出し、
 猫のようにチョコパイを
 キャッチしてしまった。
 

「たくさんあるから、
 好きなだけ食べていいよ。チョコパイ」


 絶対に布団から
 出てやんないと思っていたのに、
 まんまと十環の策略にはまってしまった。


 こうなったら、やけ食いだ!!


 久々に、甘いものにありつけた喜びを
 かみしめながら、
 2個目を食べようとした、その瞬間。


「一颯くん、今、
 チョコパイを食べているよね?」


 十環がいつも以上の笑みを浮かべて、
 こっちを見ている。
 

 こういう時の十環には要注意だ。


 ニコニコ笑顔で俺を安心させておいて、
 いきなり俺のハートをめがけて、
 マシンガンを乱射するときがあるからな。


 どんなことをしてくるか警戒していると、
 十環はサラッと言った。
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