白雪姫に極甘な毒リンゴを


「昨日お前に言ったこと……

 あれ……

 本気じゃないから」


「え?」


「お前より、茜が好きだって言っただろ。

 あれ……

 嘘だから……」


 それって、どういうこと?


「俺さ、2か月前にこの家を出てから、
 六花のことを忘れよう、
 忘れようって必死だった。

 早くお前への思いを捨て去って、
 兄としてお前のもとに帰らなきゃって。

 でも、全然忘れられないし、
 六花に会いたいって思いは
 どんどん募っていくし、結構つらくてさ。

 その辛さを紛らわしてくれたのが茜だった。

 茜と一緒にいれば、
 楽しく六花のことを忘れられるんだ。

 それなのに、一人になった瞬間に
 俺が思い出すのは、いつもお前のことで。

 全然、俺の中からいなくなってくれなくて。

 だから俺、昨日の夜に茜に
 自分の思いを伝えて謝ったんだ。

 別れてくれって。」


 茜さんと……

 別れたってこと?


「茜さんは、なんて言ったの?」


「俺もさ、怒鳴ったり泣かれたり
 されるんだろうなって思った。

 でも俺が自分の思いを話したら、
 いつもみたいに優しい声で言ったんだ。

 『一颯が他に好きな子がいるって、
 わかっていたよ』って。

 『弱っている人を見ていると、
 ほっとけないからかな。一惹かれたのは』って

 本当に、良い奴だった。茜は」



 茜さん。 


 本当に素敵な人だな。


 私はきっと、
 お兄ちゃんの気持ちを一
 番に考えてあげるなんて、
 そんなことできそうにないな。

< 251 / 281 >

この作品をシェア

pagetop