白雪姫に極甘な毒リンゴを
「りっちゃんが2歳で、一颯に初めて会った時。
一颯は覚えてないだろ? 」
「覚えてるよ」
え?
お兄ちゃん、
私と初めて会った時のこと覚えているの?
だって、私が2歳ってことは、
お兄ちゃんは4歳だよ。
まだ幼稚園の年中さんくらいだよ。
「俺さ、初めて六花を見たとき、
こいつ白雪姫みたいだなって思った。
雪みたいに真っ白な肌して、
リンゴみたいに真っ赤なほっぺで。
なぜか、リンゴを持っていて離さなくてさ。
最初は母さんの後ろで、
警戒した猫みたいに隠れていたのに、
俺が笑いかけたら、六花が笑ってくれてさ。
あの時の六花の笑顔、俺、ずっと忘れられない」
遠くを見つめながら
優しく微笑んだお兄ちゃん。
穏やかに照らす太陽の光で、
お兄ちゃんの瞳がキラキラしていて、
私は思わず口に出してしまいそうだった。
お兄ちゃん……
か……かっこいい……
それにしても、私が……白雪姫?
初めて会った時、
そんな風に思ってくれたんだ。
お兄ちゃんの言葉に、
嬉しいような恥ずかしいような、
なんとも言えないものが、
私の心をあたためてくれる。
「外にずっといたら、
寒くて雪だるまになっちゃうぞ。
さ、一颯もりっちゃんも、家の中に入ろう」
「うん」
「俺、この家に上がるの久々だな」
「一颯は、
俺の誕生日にも帰ってきて
くれなかったからな」
「一応、スマホに送ったろ?
『おめでとう』って」
「スタンプ1個だけだったじゃないか!
本当に、薄情な息子だよ。
それに引き換え、りっちゃんは……」
あ……
お父さんの誕生日……
一週間前だったのに、
私、すっかり忘れていた……
「りっちゃんは……りっちゃんは……
おめでとうすら言ってくれなかったし……」
お父さん、完全に拗ね拗ねモードです。
リビングのコタツに入ったかと思うと、
頭だけ出してうつぶせに寝転がっているし。
「親父、そんなことで拗ねるなよ。
亀みたいだぞ」
「俺のことは放っておいてくれよ。
毎年りっちゃんは、
俺の誕生日にはちらし寿司を作ってくれて、
プレゼントもくれるのに……
今年は……
俺に笑いかけもしないで、
部屋にこもっていて……
それもこれも、一颯のせいだからな」
「は?
俺のせいにすんなよ」
「一颯がこの家を出ていかなければ、
毎年のようにりっちゃんが
笑ってお祝いしてくれたのに」
「祝ってほしかったら、
自分から言えばよかっただろ。
誕生日だって」
「そんなこと言えるかよ。
一颯だって、
俺と同じ状況なら言えないくせに」
「は? 俺は親父と違うし。
六花にお祝いしてもらえなかったくらいで、
拗ねたりしないし」
「嘘だね。
一颯は絶対に拗ねるね」
もう……
お父さんもお兄ちゃんも……
些細なことで言い合いするところ
、昔から変わらないんだから。
私はクスクス笑いながら、
言い合い中にカットしたリンゴをお皿に乗せて、
コタツの上に置いた。