白雪姫に極甘な毒リンゴを

「お父さん……

 お誕生日のこと忘れていて本当にごめんね。

 来年は、
 ちらし寿司に桜でんぷんを
 たっぷり入れてあげるから。

 お兄ちゃんがくれたリンゴ、みんなで食べよ」


 その言葉に、
 なぜだかムッとした表情のお兄ちゃん。


 お父さんはムクっと起き上がって、
 急にニコニコしながら
 フォークにリンゴを刺した。


「親父はリンゴ食うなよ!」


「なんでだよ?」


「このリンゴは、俺が六花にあげた特別な……

 って……

 あ~。 もういい」


 お兄ちゃんは、
 あきらめたような顔でため息をついた。


 お父さんの表情を見たら、
 お兄ちゃんがこれ以上
 言わない理由がわかった。


 だってお父さん、
 『待て!』と言われたまま、
 食べさせてもらえず待ち続けている
 ワンちゃんみたいに、
 しょぼんとした顔をしているから。


「親父も食べていいよ。

 その代わり、
 六花が誕生日を忘れたこと、
 もうグチグチ言うなよ」


「一颯~
 お前は本当に優しいな~」


 急に笑顔になって、
 お兄ちゃんに抱き着くお父さん。


 お兄ちゃんって本当に優しい。


 だって、私がお父さんの誕生日を忘れたことを
 さりげなくフォローしてくれて。


「六花も、リンゴ食べろよ。

 早くしないと、親父に全部食べられるぞ」


「うん」


 あわてて口に運んだリンゴはサクサクで、
 たっぷりの甘い蜜が口いっぱいに広がって、
 今まで食べたリンゴの中で一番おいしかった。

 

 


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