白雪姫に極甘な毒リンゴを


 だって、
 リンゴをくれた時に言っていたのに。


 『俺さ、七星みたいに六花に優しく
 微笑んだりできねえけどいいの?』


『紫音みたいに、
 人前でお前を抱きしめたりもしないし、
 十環みたいに、『かわいい』とか
 甘い言葉も言わないけど、
 それでも俺でいいわけ?』って。


 そう言っていたのに


 こんな極甘なことされたら……
 お兄ちゃんから離れたくないって
 思っちゃうよ。


 学校なんて行かずに、
 ずっとこのまま抱きしめられていたいなって
 思っちゃうよ。


 そんな私の甘い思いも届かず、
 お兄ちゃんは腕をほどいて、靴を履き始めた。


 そうだよね。


 早くいかないと、
 電車に乗り遅れちゃうもんね。


 抱きしめられて嬉しかったはずなのに、
 急に襲ってきた寂しさ。


 そんな私の心に吹く
 冷たい風を一掃するかのように、
 お兄ちゃんは陽だまりのような
 温かい瞳で私を見つめた。


「六花も、俺以外の男を好きになるなよ」


 そう言って私の両頬に添えられた、
 温かいお兄ちゃんの手。


 私の頬は、
 極甘なリンゴのように真っ赤に染まっていた。

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