白雪姫に極甘な毒リンゴを

 教室に入って、
 自分の席に荷物を置いた。


 その時、隣の席の七星くんも席に来て、
 ふっと目が合った。


 七星くんと最後に会ったのは、年末だったな。


 七星くんがくれたと思い込んでいたお守りが、
 お兄ちゃんがくれたものかもって思って、
 何も考えずに
 七星くんの家に行っちゃったんだっけ。


 七星くん、どう思っているかな…… 


 私のこと……


「りっちゃん、今年もよろしくね」


「あ、うん。こちらころよろしく」

 あわてて笑顔で返事をしたけど、
 今までと変わらない柔らかい微笑みをみせる
 七星くんに、ちょっと安心感を覚えた。


「よかった。 りっちゃんが、
 また笑うようになって」


「え?」


「だって2学期の終わりごろは、
 全く笑わなくなっちゃったでしょ?

 どんどん細くなっていったし、
 大丈夫かなって心配してた」


 そうだったんだ。


 七星くんも私のことを、
 気にかけてくれていたんだ。


「ごめんね、心配かけて。
 もうこの通り、元気だから」


「俺さ、今思うと、
 一颯先輩が小学校を卒業したあの時から、
 負けていたんだと思う」


「負けていたって……何が?」


「りっちゃんへの思い。

 あの人には勝てないな。
 今までも、これから先もね。

 だから、りっちゃんは一颯先輩を選んで、
 正解だと思うよ」


 七星くんは目じりを下げながら
 優しく微笑んでくれた。


「ありがとう」


 このありがとうは、
 私が小1の頃からのお礼。


 七星くんへの片思いは、
 辛いことのほうが多かったけど、
 でも、七星くんを好きになって
 良かったと思う。


 あの頃の辛い恋があるから、
 今、本当の幸せを
 見つけられたんだと思うから。


 私はもう一度、心の中でつぶやいた。


『七星くんも、幸せになってね』
< 262 / 281 >

この作品をシェア

pagetop