白雪姫に極甘な毒リンゴを
その時、教室のドアから、
ムササビのように両手を広げて、
こっちに向かってくる人が。
「りっか~~!!」
泣きそうなほど顔をゆがませて
抱き着いてきた桃ちゃん。
「良かったよ! 本当に良かったよ!
六花が北海道に行かなくて。
また、六花と一緒にいられるよ~」
そこまで私と
一緒にいたいって思ってくれていたんだね。
私のことを、
ここまで大事に思ってくれる友達がいて、
本当に幸せ者だよ。私は。
そんな大親友にも、
心からお礼を言わなきゃと思っていると、
抱き着いていた桃ちゃんが私から離れ、
全く想像していなかったことを口にした。
「私ね……
六花に報告があって……」
報告って何?
まさか……
中学で番長だったときの血が騒いで、
この年末年始に、
誰かをボコボコに殴ったとか?
いや違う。
目の前の桃ちゃんは、
そんな凶暴なオーラとは正反対な、
乙女のピンクオーラを発しているし。
あの、中学のお仲間さんたちの一人と、
付き合いだしたとか?
「私ね……
好きな人ができたの」
自分の勘のするどさに、自分でビックリ。
「好きな人が誰か、聞いても大丈夫?」
モジモジ恥ずかしがって、
タコみたいにクネクネ桃華さん、
初めて見たよ。
「……うん。
実は……」
誰? 誰?
嫌いな人には、
鋭い瞳で睨みつけて凍らせてしまうような
桃ちゃんを、
ここまで虜にした罪深い男子は?
「それはね……
十環先輩」
「ひぃえ??」
あまりにビックリして、
変な声が出ちゃった。
だって、よりにもよって十環先輩だよ。
大好きな人を、未だに忘れられない、
あの十環先輩だよ。
どうしよう……
十環先輩には、
結愛さんっていう忘れられない
元カノがいること、
教えてあげたほうがいいのかな……
でも目の前の桃ちゃんは、
十環先輩のことを思い出して、
幸せを感じているみたいだし……
「六花、どう思う?」
「え……
桃ちゃんと十環先輩、お似合いだと思うよ」
わ……わたし、
なんてことを口走っちゃったんだ!!
無責任にも程があるよね!!
「六花、ありがとう。
六花にも、協力してもらえるかな?」
いつも、ライオンみたいに
自信満々の桃ちゃんなのに。
十環先輩のこととなると、
自信がなくて弱弱しい。
そんな恋をしている桃ちゃんが、
私の瞳にかわいく映った。
「桃ちゃん、私も協力するね」
「六花~!!
もう、大好きだよ!!六花のこと!!」
また、私に抱き着いてきた桃ちゃん。
でもでも、どうしたらいいかわからないし、
帰ったらお兄ちゃんに相談しなきゃな……
そんな不安にかられながらも思った。
大好きな桃ちゃんが、
十環先輩と幸せになってくれたらいいなって。