白雪姫に極甘な毒リンゴを
「六花さ、青い箱の中、見ただろ?」
バレてた?
そうだよね。 バレバレだよね。
リンゴの刺繍がほどこされた白いワンピースを
ハンガーに通して、
クローゼットに掛けたままにしちゃったし。
「ご……ごめんなさい……」
「別に謝らなくていいし。
十環に言われたんだろ?
赤と青い箱の中を見てって」
「……うん」
お兄ちゃんに怒鳴られると思ったのに、
なぜか穏やかな眼差しで
私を見つめるお兄ちゃん。
「ちょっと待ってな」
そういうと、ラッピング袋に入ったものを、
一つずつテーブルの上に出し始めた。
「俺さ、母さんが亡くなってから、
六花に誕生日プレゼントを渡さなかっただろ?
実は、毎年用意していたんだ。
渡そうと思って」
そうだったんだ。
「六花が小2の時は、
このりんごの香りがする消しゴム。
3年はりんごがついたヘアゴムとピン。
4年の時は、
ステンドグラスのリンゴのネックレス。
俺の手作り」
「リンゴばっかりだね」
「六花を思い出そうとすると、
リンゴを離さなかった2歳の六花が
真っ先に浮かんじゃうからさ。
それに、よく母さんに駄々こねていたじゃん。
リンゴ剥いてって」
「駄々なんて、こねてないもん」
「ま、記憶力が悪い六花ちゃんは、
覚えてないかもな。
で、5年の時のプレゼントは、
初めて挑戦したリンゴの刺繍入りのハンカチ。
6年も、手作りの給食袋に、
リンゴの刺繍を入れてみた」
「刺繍なんてすごいね。こんな綺麗に」
「今と比べたら、
この時の刺繍なんて恥ずかしすぎる出来で、
捨てたいくらい」
「そんなことないよ!
私、絶対に捨てないから」
「アハハ。
ま、六花よりは、
この時の俺の刺繍のほうがうまいかもな。
で、中1の時のは、
俺が彫刻にはまっていたから、
オルゴールが入った木箱に、
リンゴを掘ってみた。
中2の時は、編み物にはまったから、
リンゴ模様が入ったマフラー。
中3で、このリンゴの刺繍入りの
エプロンを作って、
この前の六花の誕生日のプレゼントは、
もう見たんだよな?」
「うん。白いワンピースが入っていた」
「俺が家に戻ってきたときに、
ハンガーにかかっていたからマジでビビった。
でも、良い機会かもって思った。
六花に、ずっと渡せなかった
誕生日プレゼントを渡すのに」
「お兄ちゃん、1つ聞いていい?
このエプロンやワンピースって、
手縫いだよね?
ミシンを使っていないよね?」
「ああ。
だってミシンでカタカタ縫ってたら、
お前にばれるだろ?」
「でも、縫い目がものすごく綺麗だよ?
いくらお兄ちゃんでも、
まるでミシンを使ったみたいに縫えるなんて
信じられない」
「ま、きっかけはこれだけどな」
お兄ちゃんはそう言いって、
箱から取り出したものは、
お守りの束だった。