白雪姫に極甘な毒リンゴを
「私……勝てないもん。
茜さんには、
勝てるところが1個もないもん」
泣かせるつもりじゃなかったのに。
どんな声をかけていいかわからなくて、
オロオロしてしまう。
おれはとっさに、
床に座り込んでいる六花を、
後ろから優しく抱きしめた。
「ごめん、六花。
今の本気にしないで。
六花以外にこのワンピースが似合う女なんて、
絶対にいないから」
「私……不安なの」
「え?」
「自分のことを、すぐに茜さんと比べちゃう。
顔だって、スタイルだって、絶対に勝てない。
こうやってお兄ちゃんに、
拗ねるし、泣くし、怒るし。
こんなの彼女じゃないよね。
ただの妹だよね」
茜と比べても、六花の方が絶対に上だし。
でも、このまま六花が俺に絶望したら、
俺の前から居なくなっちゃうかも。
『やっぱり、七星くんか紫音くんがいい』
って言いだすかも。
俺は体が震えだすほど怖くなって、
あわてて反論した。
「俺は、そんな六花がいいから。」
「え?」
「俺の顔色を伺って、
いつも笑っている彼女なんていらない。
俺の言うことを、『そうだね』って
聞き入れるだけの女も」
「でも、私はただのワガママだよ」
「お前は、自分の気持ちを
ちゃんとぶつけてくるだろ?
笑ってくれるのも嬉しいけど、
怒ったり、拗ねたり、泣いたり。
俺は、クルクル変わる六花の表情が、
大好きでたまらない。
さっきはごめんな。
拗ねた六花がかわいくて、
もっと拗ねた六花が見たいと思って」
「私、今のままでいいの?
自分の感情をコントロールできなくて、
すぐに怒ったりしちゃうけど、
そんな私でいいの?」
ぺたりと床に座り込んで、
上目遣いで俺を見つめる六花。
涙で潤んだ瞳が、
俺をまっすぐ見つめている。
ダメだな。俺。
六花を失ったら、生きて行けそうにないな。
俺の生きる道を照らしてくれる、
明かりみたいなものだからな。六花は。
俺は六花の頭に手のひらをのせると、
愛おしさを伝えたくて、
優しく頭をポンポンとした。
そして、
安心させるように、心から六花に微笑んだ。
「俺が傍にいて欲しいって、心から思う相手は、
六花だけだからな」
六花の瞳から流れた涙を指で拭い、
俺は六花の唇に、キスをした。