白雪姫に極甘な毒リンゴを


 親父は帰ってくるなり、
 俺の横を素通りして、
 六花をギューっと抱きしめた。


「りっちゃん、会いたかったよ~」


 オイオイ!親父の彼女ですか、六花は?
 と、つっ込みを入れたくなるが、
 これが我が家の当たり前の光景だ。


「親父さ、帰ってくるなり
 六花に抱きつくの、やめろよ。
 六花はもう、高校生だぜ」


「りっちゃんは、嫌じゃないよね?」


「うん。子供の頃から、慣れっこだよ。」


 六花も、そんなもの慣れるなよ!と
 突っ込みを入れたくなるが、
 天使のような笑顔を見せた六花に、
 キュンとしてしまった。


 本当にかわいいんだよな!!


 六花の無邪気な笑顔って!!


 やべ!!


 六花の笑顔が可愛すぎて、
 俺の顔が熱を帯びだしちゃったんだけど。


 冷やせ! 冷やせ! 

 俺の顔を!!


 目の前にあった麦茶を、一気飲みしてみたが、
 ごまかしきれたのかはわからない。


 まだ顔が赤かったらどうしよう……
 俺が左手で、顔を隠していると


「一颯、お前も寂しいのか?」

 そう言いながら親父は、
 ニコニコしながら俺に抱きついてきた。


「やめろ、クソおやじ。」

 
「いいじゃねえか。
 お前のことも好きなんだから」


 お酒なんて1滴も飲めないくせに、
 しらふでこのテンションなのがうざすぎる。


「いいかげんにしろ、クソおやじ。」

 
 抱きつこうとする親父を、
 力いっぱい拒絶した。


 参ったか!


 俺だってもう高3なんだ。


 力で言ったら、
 親父よりはるかに強い自信がある。


「いいんだ……いいんだ……
 力では一颯に勝てなくても……」


 じゃあ、何なら俺に勝てるのかよ?


 顔か? 


 スタイルか?


 いくら親父が、
 近所のおばちゃんたちから
 『ダンディ』ってささやかれているからって、
 45歳の親父に、
 見た目で俺が負けるなんてことは
 100%ない。


 俺だって、
 このルックスでいるための努力は、
 惜しみなくやっているから。


「りっちゃん、お小遣い、足りているか?
 足りなかったら、
 お父さんに遠慮なく言うんだぞ」


 金をちらつかせてきたか……


 親父お得意の、おこずかい作戦。


 お金で娘の気をひこうとしているあたり、
 大人としてどうなんだか。


「大丈夫だよ。
 特に買いたいものもないし」


「りっちゃんは本当にいい子だよな。
 今度、
 チョコケーキを買ってきてやるからな」


「やった~」


 どうせ、俺が親父に何を頼んだって、
 聞いてくれないとわかっているが、
 いつもの流れで俺も口を挟む。


「あ、俺。
 買いたい服があるんだった。
 あとさ、スカルのベルトも。」


「一颯はバイトをしろ!バイトを!
 それで俺を養え。」


「は?なんだよそれ!
 六花ばっかり甘やかしやがって!」


「フフフ」


 六花は、俺と親父の言い合いの時は、
 いつも笑ってくれる。


 俺は六花の、この笑顔が見たくて、
 どうしようもないくらい娘に甘々親父と、
 バトルをすることも多い。


 もしかしたら親父も、
 六花のこの笑顔が見たいのかも
 しれないな。


 いや?
 
 ただ単に、六花に甘えたいだけかも……


 さっきまで俺を拒絶していた六花が、
 普通に俺たちに話しかけてきた。


「お兄ちゃんもお父さんも、ご飯にしよう。
 ご飯が冷めちゃうよ」

 
 ま、六花の機嫌が少しは良くなったし、
 親父が帰ってきてくれたお陰だな。

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