白雪姫に極甘な毒リンゴを

 夕飯に3人が揃うことは、
 週に1回くらいしかない。

  
 娘に甘えるダメダメ親父は、
 実は、仕事はバリバリこなす、
 やり手らしい。


 建築士で、
 お客さんのマイホームの
 間取りのこととなると、
 とことんお客さんの声を聞いて、
 それを形にするらしい。


 だから、仕事から帰ってくるのは
 深夜になることが多く、
 夕飯にはいないから。


「お!今日のメインは、野菜の肉巻きか?」


「お父さんも、お兄ちゃんも、
 野菜を残さず食べてよ」


「わ……わかってるよ」


 親父はそう言いつつも、
 六花がしょうゆを取りに行ったすきに、
 肉に巻かれていた人参とピーマンを取り出し、
 俺の皿に置いてきた。
  

「りっか!
 親父が、
 中の野菜を俺の皿に置いたんだけど」


「バカ!一颯、言うなよ」


 俺の告げ口を聞いて、
 六花がしょうゆを持って戻ってきた。


「お父さん……
 私が一生懸命作った料理を……残すんだね」


 悲しい口調の六花に、
 親父はオドオドしている。


「違うんだよ……りっちゃん……
 これは……一颯が……」


 なんて親父だ。


 六花に嫌われたくない気持ちはわかるけど
 俺に罪を擦り付けるなよ!


 俺が親父に怒鳴ろうとした時、
 六花が先に口を開いた。


「お兄ちゃんも野菜嫌いだけど、
 いつも残さず食べてくれるもん」


 え?


 六花の言葉に、
 俺の胸が猛スピードで熱くなる。


 う……嬉しい……


 六花がそんな風に、
 思っていてくれたなんて……


 俺が密かににやけていると、
 六花は冷たい口調で言った。


「でも、お弁当のたこ焼きは、
 食べてくれなかったけどね」


 なんだよ。

 せっかく喜んでいたのに。


 その話を蒸し返されたら、
 俺、悪魔モードで
 六花を責めるしかないじゃん。


「は?
 まだ根に持ってんのかよ。

 もっと、うまいたこ焼きを
 作れるようになってから言えよな」


「いいもん。
 お兄ちゃんには、一生、
 たこ焼きなんて作ってあげないんだから」


 六花は、ぷいっと首を振ると、
 黙々とご飯を口にはこびだした。


 は~


 本当は、
 六花に笑ってほしいって思ってんのに、
 俺は死ぬまで、
 悪魔モードで六花に
 接しなきゃなんねえのかな……

 
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