白雪姫に極甘な毒リンゴを
――私が小学校5年生の時――
「赤城、金曜日までに、
この本を全部、
図書室に返しておいてもらえるか?」
図書委員の私は、
先生に仕事を頼まれた。
明日は委員の他の仕事もあるし、
今日中に運んじゃおう。
う~ん。
全部を持っていくのは大変そうだけど、
行けないこともなさそうだな……
1回で運んじゃいたいし、
全部持って行こう!
私は本を両手に積み上げ、
図書室に向かった。
う……重たい……
前が……見えない……
でもこのまま頑張れば……
運べないこともないような……
あっちにフラフラ、
こっちにフラフラしながら、
廊下を歩いていたその時。
「赤城さん、大丈夫?」
本で顔が見えないけど、
声を聞くだけで誰だかすぐにわかった。
「な……七星くん?」
七星くんが私に声を掛けてくれたのなんて、
いつ以来だろう……
多分……
同じクラスだった
小学校1年生の時以来かな。
でも、小1の頃は
りっちゃんと呼んでくれていたのに、
呼び方が赤城さんに変わっていた。
私のことは興味ありません。って
言われた気がして、一気に気持ちが沈む。
「重いでしょ。
本を持つの、手伝うよ」
「え? いいよ、いいよ。
図書委員の仕事だから」
「じゃあ、これだけ持って」
七星くんはそう告げると、
1冊だけ私の手元に残して、
他の本を全部持ってくれた。
「どこに運ぶの? 図書室?」
「う……うん」
七星くんの、
私だけに向ける笑顔を見るのが久々すぎて、
ドクンドクンと聞きなれない音を出す心臓。
七星くんの笑顔って、
アイドルがファンの子に向ける笑顔みたい。
その笑顔を見てしまったが最後、
脳に焼き付いて消えなくなってしまう。
でも、
七星くんと二人だけでいられる
奇跡のような時間が消える前に、
なにか話さなきゃと思うと、
焦ってしまって、何も話せなくなる。
そんな時、
七星くんから話しかけてくれた。
「赤城さんのお兄さん、元気?」
「う……うん」
返事をするので、いっぱいいっぱいだよ。
でもなんで
お兄ちゃんのことなんて聞くんだろう……
「俺さ……」
「え?」
「あ、ごめん、なんでもない。
本を運ぶの、図書室で良かったんだよね?
ここに置けばいい?」
「あ……うん」
今七星くん、何か言いかけたよね?
何を言おうとしたの?って
聞きたかった。
でも、いつも笑顔の七星くんが、
一瞬暗い表情をした気がして、
これ以上聞くことができなかった。
もっとお話がしたかったな。
同じクラスだった
小1の頃みたいに……
「七星くん……ありがとう……」
「赤城さん、無茶しちゃダメだよ。
本を運ぶときは、
前が見えるくらいにしてね。じゃあね。」
七星くんの穏やかな微笑が、
懐かしく感じた。