白雪姫に極甘な毒リンゴを
俺は、
自分の部屋の吹き抜けに面した窓から、
1階のダイニングをこっそり覗いた。
六花が作ってくれたオムライスが、
ぽつんとダイニングテーブルの上に
取り残されていた。
何やってんだよ! 俺!
六花が、俺を喜ばせようと思って、
せっかく作ってくれた料理を残すなんて……
すっげーうまかったのに……
リビングのソファの上で、
三角座りをして小さく丸まっている六花が
目に入った。
あんな悲しそうな表情を、
させたかったわけじゃないのに……
「もう!
どうなっても知らないからな!」
自分に言い聞かせるようにつぶやいて、
俺はまた、階段を駆け下り、
ダイニングに戻った。
「お……お兄ちゃん?」
突然、
ダイニングに戻ってきた俺に驚いた六花。
俺は六花を無視して、
ダイニングテーブルの前に座り、
食べ残しのオムライスをほおばった。
マジでおいしい。
なんか、
涙が出そうになるくらいおいしい。
でも、涙はまずい。
俺が六花のこと好きだって、
ばれちゃいそうだから。
「おいしいよ」って
満面の笑みで伝えたい思いを
なんとか封じ込め、
俺は無表情でオムライスを完食した。
俺が席を立ち、
自分の部屋に戻ろうとした時、
「お兄ちゃん……
なんで……食べに戻ってきてくれたの?」
六花が俺の前まで来て、
自信なさげに小さな声でつぶやいた。
「別に……
今まで食った六花の料理の中では、
一番うまかったから」
俺の言葉にビックリしたのか、
真ん丸な瞳をそれ以上に開いた六花。
そして……
「良かった」
花がふんわり開くように、
六花は柔らかく微笑んだ。
危険!危険!
これ以上一緒にいたら、危険!
また俺の脳みそが、
危険信号を感知した。
六花、その笑顔はマジ勘弁!
俺に向かって、
そんな純粋な瞳で微笑まれたら、
悪魔仕様なんて、
簡単に剥がれ落ちるんだからな!
『六花に触れたい!』
その衝動が抑えきれなくて、
俺はうつむきながら六花の頭をポンポンした。
「お兄……ちゃん……?」
いつもの高圧的な態度とは一変した俺に、
戸惑っている六花。
でも、
大好きでしょうがない六花への思いが
あふれ出したとたん、
ブレーキが利かなくなってしまった。
『六花のこと、抱きしめたい……』
そう思ってしまった時、
現実に引き戻す言葉が、俺の耳に届いた。