白雪姫に極甘な毒リンゴを

 目の前の七星くんは、
 空みたいにさわやかな水色のエプロンを、
 さらっと身につけていた。


 似合いすぎていて、
 目のやり場に困っちゃう……


 エプロン姿の七星くん……
 かっこよすぎです……


 その時、


「七星! 何しているの?」


 リビングから、
 心配そうにこっちを見つめるクルミちゃん。


 そしてその隣には、
 悪魔のような鋭い目つきで、
 なぜか私を睨みつけるお兄ちゃんがいた。


 二人とも、
 大股でこっちに向かってくる!


 七星くんと二人だけの時間も、
 これで終了!


 もう少しだけ、
 エプロン姿の七星くんの隣に
 いたかったのに……


 そう思っていると


「一颯先輩、
 お家の中を案内してくれるって、
 約束してくれましたよね?」


 桃ちゃんが、お兄ちゃんに話しかけた。 


「ああ……」


「ステンドグラスのお部屋、
 早く見せてくださいよ!

 クルミちゃん、行こう!」


「え……でも……七星が……」


「一颯先輩のお部屋を
 見せてもらえるチャンスなんて、
 今しかないよ!

 レッド王子の禁断のお部屋を見たって、
 友達に自慢できちゃうし! 

 行こう! 行こう!」


「そうだね。
 こんなチャンス、
 もう、ないかもしれないもんね」


 桃ちゃんはみんなに気づかれないように、
 私にぱちりとウインクをした。


 桃ちゃんが……

 女神に見えたよ……


 しかも、
 私と七星くんを二人だけにするために、
 演技までしてくれて。


 だって、桃ちゃん。

 お兄ちゃんの部屋なんて、
 1ミリも興味ないと思うから。


 桃ちゃんが作ってくれた
 七星くんとの時間を、
 大事に使わせてもらうために、
 恥ずかしいけど、
 七星くんに頑張って話しかけなきゃ。


 でも……

 キッチンに二人だけだと…… 

 何を話せばいいんだろう……



 緊張しすぎて、声じゃなく、
 心臓が口から出そうだよ。


 でも、なんとか思ったことを声にしてみた。


「七星くんって…… 料理するの……?」


「あ、うん週末くらいかな。
 って言っても、昼だけね。  

 うちさ、小6に双子の弟がいてさ、
 お腹すいたってうるさいから」


「何を……作るの……?」


「オムライスとか、チャーハンとかだよ。

 この前は、エノキに肉を巻いて、
 焼き肉のたれで味付けしたのを作ったのに、
 エノキ嫌い!って言って、
 エノキだけ残したんだよ。

 ひどいでしょ?」


 フフフと笑ってしまった。


「りっちゃん、なに? 
 何か面白かった? 俺の話」


「うちのお父さんと、
 同じだなって思って」


「同じ?」


「この前ね、
 人参とピーマンをお肉で巻いたの。

 お父さんったら、その野菜だけ出して、
 お兄ちゃんのお皿に置いたの。

 やることが小学生レベルだね」


「りっちゃんのお父さんって、
 本当に面白いね。

 このタコだって、
 普通1匹丸ごとは買ってこないよね」


 お父さんの話をしているからか、
 ドキドキが薄らいで、
 七星くんと普通に話せちゃった。


「りっちゃん、今度さ……
 お弁当、交換しない?」


「え?」


 七星くんの突然の提案にビックリして、
 お皿を落としそうになってしまった。
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