白雪姫に極甘な毒リンゴを



☆一颯side☆

 「ただいま」


 は? 

 何かおかしくないか?


 玄関に入って、
 いつもと違う何かを感知した俺。


 俺に搭載されている六花センサー。


 本気で使えば、
 六花が家にいるかくらい
 すぐにわかる優れもの。


 ……って。 


 六花の奴、家にいなくないか?


 リビングやキッチンにもいない。

 2階に上がったけど、
 六花の部屋にもいないし。


 六花の奴!!!

 門限はとっくに過ぎているのに、
 どこほっつき歩いてんだよ!!


 こういう時は、
 スマホに頼るしかないと思ったけど、
 それはムリじゃん。


 だって俺が、
 六花にスマホを持つことを禁止してんだから。


 初めて、
 スマホくらい持たせとけば良かったって
 本気で後悔したけど、
 今そんなこと言っても遅いし。


 1階のリビングに戻ってくると。


「なにこれ?」


 テーブルの上に、メモが置いてあった。


「は? 
 500円で夕飯買いに行けってこと?

 門限無視して、料理も作らないで、
 何やってんだよ! 六花の奴!」


 どうせ、
 七星と一緒にいるに決まっている。


 今朝なんて、
 いつもより1時間も早起きして
 お弁当作っていて。


「今日のお弁当、いつもより豪華じゃね?」
 って聞いたら、

「七星くんと、お弁当交換するんだ」って、
 幸せオーラ全開の笑顔で
 俺に言ってきやがって。


 どうせ今頃


 『りっちゃん、お弁当おいしかったよ!』

 『七星くんのお弁当も、おいしかったよ!』
  って、
 公園のブランコに座りながら、
 目を見つめ合って微笑んでんじゃないの?


 は~ 


 俺だって、結構しんどいんだけどな……


 六花のことが、
 好きで好きでたまんないのに、
 自分の物にはできないことがさ……



 いっそのこと、
 六花と家族なんかにならなければ、
 周りなんて気にせずに、
 七星のことが好きな六花の心を、
 本気で奪いに行くのに……


「とりあえず、夕飯でも買いに行くか」と、
 カバンを持とうとした時、
 ごみ箱の横に、クシャクシャのカードが
 落ちていることに気が付いた。


 なにこれ? 
 これって、六花の字だよな?


 『七星くんって、好きな人いますか?』

 
 で、七星の答えが……『クルミ』


 は? 
 そんなはずないだろ?


 俺は断言できる! 

 七星の奴は、100%六花が好きだって。


 このカードが捨てられていたってことは…、
 六花の奴、
 七星にフラれたと思って、
 傷ついているってことか?


 そう思えば、全て納得する。


 今まで一度も、
 俺の夕飯を作らなかった日はなかった六花が、
 料理を作りたくないわけも。


 今ここに、六花がいないわけも。


 七星とのキュンキュンがつまった
 この家なんかに、
 いたくないと思うよな。きっと。



 やべ!

 今すぐ六花のところに行って、
 抱きしめてやりたい。


 俺がそばにいるからって、
 優しく包んでやりたい。


 そう思った時には、
 俺は家を飛び出していた。
< 70 / 281 >

この作品をシェア

pagetop