白雪姫に極甘な毒リンゴを


 これは……

 よろしくないような……


 私に八方から突き刺さる視線……


 明らかに悪意を感じます……


 そりゃそうだよね。

 いつも女子に囲まれている
 バスケ部のエース紫音くんの隣に、
 こんな、昭和感漂う、
 おさげメガネがいるんだから……


 紫音くんは、
 そんな取り巻き女子が
 全く気にならないみたい。


 こんな人気者の紫音くんが、
 なんで私なんかと一緒に帰りたかったのか、
 最初は全く分からなかった。


 でも、靴箱に着いた辺りには、
 早くもわかってしまったよ。その理由。


「六花、
 一颯先輩ってどのシャンプー使ってんの?」


 さっきから、お兄ちゃんのことばっかり。


「ごめん。わからない。

 お兄ちゃんね、お風呂に入るときは、
 自分の部屋からシャンプーを持っていくから」


「やっぱり、カッコいいな。
 シャンプーまでこだわりがあるなんて

 じゃあ、ボディシャンプーは? 洗顔は?」


「それも、
 お風呂場に置いてないからわからないよ」


 こんな感じで、
 お兄ちゃんについての質問攻め。


 目をキラキラ輝かせて、
 お兄ちゃんのことばっかり聞いてくる。


 この紫ベストを身に纏った紫音くん。
 お兄ちゃんの、大ファンなんだって。


「紫音くん。お兄ちゃんのどこがいいの?」


 あんな上から目線で。


 自分の思い通りにならないと、
 目をキーってつり上げて怒り出す、
 悪魔みたいなお兄ちゃん。


 なんでみんなから、好かれるんだろう。
 本当に疑問だよ。


 確かに顔だけ見たら、
 モデルさんって間違われるくらい
 整ってはいるけど。


 私の単純な質問に、紫音くんは
『わかってないな感』のため息。


「六花さ、それ、本気で言ってる?

 俺、この学園に入学して
 初めて一颯先輩を見た時、
 眩しくて息するの忘れたんだから」


 そんな眩しい人、この世にいる?


 人間って、体から光なんて発しないよね?


「お兄ちゃんのバックが、
 夕日だったとか?」


「違うから!

 一颯先輩の眩しいオーラに、
 吸い込まれそうになったの。

 綺麗な顔立ちなのに
 男らしさも漂っていてさ、
 俺も一颯先輩みたいになりたいって、
 憧れちゃったわけ」


「私なんかが比べるなんておこがましいけど、
 紫音くんの方が、
 カッコいいと思うけど。お兄ちゃんより」


 素直にそう思う。


 女の子と間違われるくらい
 綺麗な顔をしているのに、
 細い体に程よく筋肉がついている。


 お兄ちゃんと違って、私にも優しい。


 肩を並べて歩いていたのに、
 あれ? 紫音くんがいない。


 振り返ってみると、
 数歩後ろで石みたいに全身固まっている。
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