白雪姫に極甘な毒リンゴを
「え?どうかした? 紫音くん……」
「六花、それ本気で思ってる?」
え?
それって、お兄ちゃんより紫音くんの方が
カッコイイって思うってことだよね?
「うん」
え……?
紫音くん……
手で口元を隠しているけど、
耳まで真っ赤になっているよ。
照れているのかな?
その姿がちょっと、
可愛いなって思ってしまった。
「俺さ、
自分の顔を変えたくてしかたがないの。
女の子に間違われたりするしさ、
一颯先輩みたいにもっと凛とした
大人男子になりたくてさ」
こんな綺麗な顔で、
女子たちにキャーキャー言われている
紫音くんが、
そんなことで悩んでいたんだ。
「そんなにいいかな?お兄ちゃん。
学校ではみんなに優しく
笑いかけたりしているけど、
私の前では悪魔だよ。
『ブス』とか『バカ』とか平気で言うし、
スマホ持たせてくれないし、
バイトも禁止なの。
昨日までは門限があって、
何時までに帰らなきゃいけなかったと思う?
平日は5時だよ。早すぎじゃない?」
マシンガンのように、
お兄ちゃんの悪口を言い放った私を見て、
紫音くんがクスクス笑い出した。
「六花ってさ、
しゃべるのが苦手なのかと思っていたけど、
一颯先輩のことになると、止まんないんだな」
「だ……だって……
お兄ちゃんの嫌なところなら、
いくらでもしゃべれちゃうもん。
今までつもりに積もった恨み、
こんなもんじゃないんだから」
紫音くんは急に、
穏やかな顔つきになった。
「俺と似てる。六花って」
え?
似てる?
みんなから人気のイケメン紫音くんと、
友達は1人だけの、ダサダサメガネの私。
似ているところなんて、
一つも見つからないよ。
「似てないと……思うけど……」
「俺もさ、姉貴にこき使われてんの。
この前なんかさ、
『紫音、大変!今すぐ来て!』って叫ぶわけ。
俺さ、1階のリビングにいたんだけど、
しょうがないから2階の姉貴の部屋に
行ってやったら、
なんて言ったと思う?」
「う……ん。
足ひねっちゃったとか?」
「だろ?
そういう、緊急事態かと思うじゃん。
行ってみたらさ、
『テーブルの上のリモコン取って』だぜ!
テーブルって言っても、
姉貴のいたベッドから
2メートルくらいしか離れてないの。
自分でとれるじゃん。
それなのに、
1階にいる俺を呼ぶなんてひどすぎねえ?」
確かに似ている。
私とお兄ちゃんとの関係と、
紫音くんとお姉さんとの関係。
そんな話をされたら、
声をだして笑わずにはいられなかった。
親近感がわいちゃった。紫音くんに。
「紫音くんのお姉さんも、弟扱いがひどいね」
「六花、わかってくれる?」
「わかるよ。私も毎日、
お兄ちゃんにこき使われているから」
「これからも、姉貴の愚痴、聞いてくれる?」
「フフフ。いいよ。
私もお兄ちゃんにムカついたら、
紫音くんに愚痴っちゃうよ。
でも、お兄ちゃんの嫌なところばっかり
言っていたら、
紫音くんがお兄ちゃんのこと
嫌いになっちゃうかもね」
「それはない!絶対ない!
俺は、一颯先輩みたいに
カッコいい男になるって決めたんだから」
「性格までは、似ちゃダメだよ、
お兄ちゃんに」
「それはどうかな?」
紫音くんと目が合って、一緒に笑った。
男の人としゃべるのって、
苦手って思っていたけど、
紫音くんはしゃべりやすい。
桃ちゃんとしゃべっている感じに近いかな。
「紫音くん、家まで送ってくれてありがとう」
「おお。じゃあまたな、六花」
そう言って紫音くんは、
夕日に向かって歩いて行った。
フフフ。
紫音くん、お兄ちゃんよりも眩しいよ。