白雪姫に極甘な毒リンゴを


 家について、
 赤城家のご先祖様に襲われないように、
 コンタクトをつけおさげをほどくと、
 洗濯物を取り込んでアイロンをかける。


 洋服にまでこだわりがあるお兄ちゃんは、
 学校の服も、私服も
 アイロンをかけろってうるさいから。


 しわが1本でもあると、
 もう一度アイロンをかけさせられる。


 お兄ちゃんって、
 嫁いじりを快感にしている
 姑みたいなんだから。


 おかげで、
 クリーニング屋さんを開けちゃうくらい、
 アイロンがけが得意になったけどね。


 あ!

 そんなこと、のんきに考えている
 場合じゃないんだった。


 洗濯物片付けて、夕飯作って、
 早くテスト勉強しなきゃ。


 恥ずかしすぎて、
 大きな声で言えないんだけど、
 5月の中間テストでは、英語が学年最下位。


 だから今日、
 英語の先生に釘を刺されちゃった。


 『赤城さん、
  英語のテスト勉強、頑張っているよね?

  もしかして、
  また赤点取る気じゃないわよね?』って。


 私だって、取りたくて赤点を
 取ったわけじゃないんだよ……

 
 多分私、英語拒否病なんだと思う。
 

 英語なんて私には理解不能の言語で、
 宇宙人の言葉を理解するようなものだよ。


 でも……先生に目を付けられているし、
 勉強しなきゃな……


 洋服にアイロンをかけ終わり、
 洗濯物も家族分畳み終えた。


 その時、玄関ドアが開いた音が。


 お兄ちゃん……もう帰って来ちゃったんだ。


 悪魔がいないのびのび時間も、これで終了。


 自分の家くらい快適に過ごしたいのに、
 悪魔がこの家に戻ってきてしまった。


 早く夕飯を作って、
 自分の部屋に逃げ込まなきゃ。


 そう思っていると
 お兄ちゃんがリビングに入ってきた。


「六花、今日の夕飯、作らなくていいから」


 え?作らなくていいなんて、
 夕飯どうするつもり?


「でも今日は、ハンバーグにしようかなって……」


「だからさ、
 料理なんて作ってる場合じゃないだろって
 言ってんの。

 お前の英語の先生から聞いたからな。

 前回の英語のテスト、
 学年びりだったんだって?」


 キャ~~!!


 お兄ちゃんには隠していたのに。


 なんでばらしちゃうかな、先生。
 

 全教科、学年トップのお兄ちゃん。


 もちろん英語だって
 『留学していました?』って言うくらい
 流ちょうに話しちゃう。
 

 同じ環境で育ってきたのに、
 この差は何ですか? 神様。


 頭の作りが、
 生まれつき違うんでしょうか?


「学年ビリって言っても、
 同じ点だった子が4人いるんだよ。

 ビリではないもん」


「もしかして、
 レベルが高いビリだとでも言いたいわけ?

 前回の英語、何点? 
 さすがに30点は超えているよな? 

 で、何点?」


 なんて意地悪な悪魔!

 
 私が30点なんて取れてないって
 わかっていて言っているよね。


 そんな赤い悪魔に、
 素直に点数何って言えないよ。


 そう思ってうつむいている私に、
 容赦はしないお兄ちゃん。


「は? 答えないつもり? 

 お前のそう言うところ、ムカつくんだよ。
 言いたくないことは、
 口きけませんみたいな顔で黙りこくって」


「……11……点」


 お兄ちゃん。


 未知の生物と遭遇しちゃったかのような
 顔をして、固まっている。


 そして、カラスみたいなどす黒い目をして、
 一気にしゃべり出した。


「11点って。
 テスト、100点満点だぞ。

 50点満点のテストでも、
 11点はヤバいって思うのに。

 お前さ、
 英語の授業聞いてないだろ?
 寝てんだろ?

 普通に授業受けてれば、
 平均点くらい余裕でとれるだろ?」


 授業を受けているよ。


 先生に穴が開くぐらい、
 じーっと見つめて授業受けているんだから。


 でも……それでも……
 全く頭に入ってきてくれないんだもん。

 英語が……。


 お兄ちゃんは、
 頭を抱えて深いため息をついている。


 ため息つきたいのは、私の方なんですけど。


「お前さ、テストが終わるまで、
 家事一切しなくていい」


「え? でも、困るよね。
 夕飯どうするの? 
 朝ご飯は? お弁当は?」


「親父が、夕飯を買って帰ってくるから。

 朝は、今日みたいに俺が作るし、
 お弁当は購買か食堂で済ませればいいだろ?」


「でも……お父さんにもお兄ちゃんも、
 大変になっちゃうよ」


「お前さ、誰の妹だと思ってんの?

 俺の妹が、学年ビリでしたなんて、
 恥ずかしくて俺が学校に行けなくなるだろ?

 お前はテストが終わるまで、
 死ぬ気で勉強しろ。

 それに、夕飯食べたら、
 寝るまで俺が勉強見てやるからな。

 覚悟しろよ」


 ひ……ひえ~~


 お兄ちゃんが……
 勉強を教えてくれるってことは……


 赤い悪魔から逃れられる、
 私の安らぎの時間が……
 無くなっちゃうってことだよね?


 でもこのままだったら、
 間違いなく英語は赤点だし。


 テストが終わるまでの辛抱。

 頑張れ、六花。
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