白雪姫に極甘な毒リンゴを
その時後ろから
「りっか、一緒に……」
名前を呼ばれた?と思って振り返ると、
紫音くんがカチコチに固まっている。
「紫音くん?」
「六花の友達?
昨日、一緒に帰ってたやつだろ?」
お兄ちゃんの言葉に、ちょっとドキリ。
ばれてましたか……
「え……と……」
紫音くんをどう説明しようか
アタフタしていると、
震えた声が聞こえてきた。
「お……俺……1年の五条紫音です……」
「六花のクラスメイト?」
「お……俺……
一颯先輩の……大ファンなんです!!!」
両手を握りしめ、
勇気をだして告白した紫音くん。
予想外だったのかな?
お兄ちゃん、首をかしげて目をパチパチ。
「あ~そうなんだな」
お兄ちゃん、
返事が他人事みたいだよ。
「そうなんです!!
入学式の時に、
在校生代表で壇上にあがった一颯先輩を見て
すっげーカッコイイなって思って。
俺も同じ赤べストを着たかったんですけど、
この学園で赤べストを着ていいのは
一颯先輩だけって聞いて。
ベストがお揃いにできなかったのは
ショックだったんですけど、見てください。
一颯先輩とお揃いの筆箱、
使っているんです!!」
紫音くんは、
バックから真っ赤な筆箱を取り出し、
印籠を突き出すみたいに、
筆箱をお兄ちゃんに向けた。
紫音くんの『一颯先輩LOVE』は、
私の想像以上です。
お兄ちゃんとお揃いにしたいほど、
憧れているんだね。
どんな反応を見せるんだろう。
お兄ちゃんは。
「え……と、名前なんだっけ?」
「五条紫音です。
紫音って呼び捨てで呼んでください」
「じゃあ、紫音さ……
お前……怖すぎ……」
お兄ちゃんが一切笑わず言い放った言葉に、
紫音くんが明らかに凹んでいます。
漫画で描くなら、紫音くんの右眉あたりに、
縦線がバーっと描かれたあの感じ。
『ガガーン!!』って、
紫音くんの頭の中の音が
聞こえたような気がしたけど、
大丈夫かな?
「でもさ……
ありがとな」
急に紫音くんに向けて、
優しく微笑んだお兄ちゃんに、
なぜか私の心も、ドキンと飛び跳ねた。
谷底へ突き落してから、
優しく手を差し伸べるこのギャップ。
お兄ちゃんが好きな子に使ったら、
一発で惚れさせるパワーがありそう。
もしかしたらお兄ちゃん、
クルミちゃんに、もうこの手を使ったかな。
「一颯せんぱ~い!!」
「あ~もう、紫音、うざい!
鼻水たらしながら、
俺に抱きついてくんなよ!」
「だって……
ありがとうって言ってもらえたのが、
嬉しくて~~」
お兄ちゃんと紫音くんのじゃれ合いに、
フフフと声を出して笑っちゃった。
良かったね。紫音くん。
憧れのお兄ちゃんと、仲良くなれて。
「紫音悪いな。
今日は急いでいるから。
六花がバカすぎて、
勉強見てやんなきゃならなくて」
バカは余計!!
本当のことすぎて、言い返せないけど……
家に帰り、
いつものルーティンをこなすとお
兄ちゃんがダイニングテーブルに座っていた。
「六花、
今日は昨日とは違ってビシバシ教えるからな!
泣かずについて来いよ!」
ひえ~~
悪魔お兄ちゃん、発動です~~
昨日は優しく教えてくれたのに、
今日のお兄ちゃんは、
寝るまで悪魔モード全開でした。
この違いは……いったい何??