白雪姫に極甘な毒リンゴを
◇◇◇
テスト期間が終わり、
クラスのみんなも
開放的になっている。
『テストも終わったし、
帰りにパーっと遊びに行きたいね』って、
教室のあちこちで聞こえる声。
桃ちゃんは相変わらず、
授業が終わると新幹線のように
超特急で帰って行っちゃったし、
それ以外に、
私と遊んでくれる人なんていない。
その現実が、
私の心に冷たい風を吹き付けてきたけど、
いいもん!いいもん!
私にはやることがあるもん!
テストの間は、
全く夕飯を作らなかったから、
今日は久々に料理しなきゃいけないから。
かばんを持って廊下を歩いていくと、
1組のクラスの前で呼び止められた。
「六花、もう帰るの?」
「紫音くん。うん。久々に夕飯作らなきゃ」
「俺は今日から、部活再開。
体がなまっているから、動けるかな?
あ、そうそう!
六花ってさ、今度の日曜の午後って暇?」
日曜か……
7月7日……
七星くんの誕生日だ。
って言っても、
七星くんと過ごせるわけじゃない。
きっと七星くんは、
クルミちゃん過ごすと思うし。
「暇だけど……」
「六花、一生のお願い!!
俺と一緒にさ、
一颯先輩のバイト先に行ってくれない?」
えぇぇぇぇぇ!!!
そ……それは
無理なお願いだよ……
お兄ちゃんのバイト先なんて……
勝手に行ったら、
お兄ちゃんになんて言われるか……
「ひ……一人で行ってよ。 私はムリだよ」
「陰から、
一颯先輩を見るだけだからさ!
俺、どうしても見たいんだよ!
一颯先輩が、パステルブルーの制服着てさ、
サンバイザーつけて、
ジェラート売ってるところ」
紫音くんが、
お兄ちゃんをこっそり見たい
気持ちはわかったよ。
ものすごく伝わった。
でもね、
だからって私を連れて行かなくても……
一人でこっそり見てればいいじゃん。
「ヤベ! 部活行かなきゃ!
六花、午後の1時に噴水広場集合な!
絶対来いよ!」
「え? ちょ……ちょっと待ってよ……」
紫音くん。
私の言葉なんか無視して、
廊下をダッシュで
バスケ部の練習に行っちゃったし。
お兄ちゃんの……バイト姿か……
見に行ったら、
絶対に赤い悪魔に怒鳴られる。
『今すぐ帰れ』って。
でも、ちょっとだけ見てみたいな。
お兄ちゃんが、
どんな感じでバイトしているか。
お客さんにちゃんに
笑ったりできるのかな?
甘いもの嫌いなくせに、
ジェラート屋さんのバイトなんて
こなせているのかな?
そう思ったら、
紫音くんとお兄ちゃんを
こっそり見に行くのも、
悪くないのかもなって思った。
日曜日、七星くんの誕生日プレゼントを、
紫音くんも一緒に選んでもらおう!
そう思っていると。
「りっちゃん!」
私が大好きな声が、
ふんわりと耳に届いた。
背中越しだけど、すぐわかる。
七星くんの声だ。