白雪姫に極甘な毒リンゴを
七星くんへの誕生日プレゼントも買えたし、
次はいよいよ、
隠れて悪魔を観察する時間が
やって来ちゃいました。
1階のフードコートの一番隅に、
紫音くんのお目当ての
お相手が働いています。
「やばいかも……
俺、すっげー緊張してきた……」
離れた柱の陰に隠れて、
お兄ちゃんを見るだけなのに、
隣の紫音くんは、
へんなテンションになってきている。
「六花、どうしよう!!
制服を着て、ジェラート売っている
一颯先輩を見るのが楽しみすぎて、
俺さ、昨日寝れなかったんだよね」
寝られないほど、
お兄ちゃんのバイト姿を見るのが
楽しみだったって、
紫音くんて本当にお兄ちゃんに
憧れているんだね。
その気持ち……
わかってあげられない……
「それにしても、
ジェラート屋さんだけすごい行列。
しかもお客さん、女子ばっかりだね……」
「そりゃ、一颯先輩目当てだろ?
一颯先輩は……と。
あ……いた……」
紫音くんの視線の先には、
お客さんに優しい笑顔を振りまく、
お兄ちゃんが。
素直に思ってしまった。
我が兄ながら……
カッコイイって。
真っ青な空のような、
さわやかな青いシャツに、
同じ色のサンバイザーをつけている。
お兄ちゃん。
パステル系の服も、似合っちゃうんだ。
「やっぱり一颯先輩って、
何を着ても様になるよな。
あの姿の、一颯先輩の等身大パネルが欲しい
持って帰って、部屋に飾っておきたい」
目を輝かせながら、
『一颯LOVE』を語り続ける紫音くん。
さっき私を抱きしめてくれた男らしさが、
どっかに吹き飛ばされたみたい。
女子がアイドルを追っかけているような
目をしている。
そんなことを呑気に考えていたのに、
急に私の背筋がゾゾっと凍り付いた。
え? え?
お兄ちゃんが……
さっきまでお客さんに、
飛び切りスマイルを向けていた
お兄ちゃんが……
私を睨んでいます!!
まって! まって!
こっちに向かって
歩いて来ているんですけど……
お……お兄様が……
逃げたい! 逃げたい!
でもそんなことはもう手遅れ。
お兄ちゃんは私たちの前まで来ると、
勢いよく柱に手をついた。