白雪姫に極甘な毒リンゴを

「こんなところで、何をしているのかな? 
 りっかちゃん」


 ひえ~~


 極上のスマイルを私に向けているけど、
 目は全く笑ってないし。


 『りっかちゃん』って呼ぶ当たり、
 かなり怒っているよ! 

 お兄ちゃん……


「俺が誘ったんです。 

 どうしても一颯先輩のバイト姿、
 見たいからついて来てって」


「ふ~ん」


 お兄ちゃんはピクリとも笑わないまま、
 お財布から何かを出した。


 ん? 

 ジェラート無料券?


「2枚あるから、
 二人でジェラート食べていけば」


「い……いいの?」


「ま、テスト頑張ったご褒美な。

 その代わり今度、
 オムライスのデミグラスソースかけ作れよ」


 ご褒美って……


 怒られると思った。


 今すぐ帰れって怒鳴られると思った。


 それなのに……



「やっぱり一颯先輩ってカッコイイな。

 サラッと、ジェラート無料券を
 置いてくあたり、人としても憧れるよな~

 六花、ジェラート食べに行こうぜ。

 で、一颯先輩のバイト姿、
 もっと近くでおがもうぜ」


 ハイテンションの紫音くんに、
 強引に手を引っ張られて、
 ジェラートのお店にずらっと並ぶ、
 お客さんの一番後ろに立った。


 『誰に接客してもらう?』

 『やっぱり、一颯さんでしょ』

 『私は十環さんがいいな』

 
 お客さんの声が、
 私の耳に勝手に入ってきた。


 どうやらこのお店は、
 食べたいジェラートを選ぶ前に、
 接客して欲しい店員さんを選ぶみたい。


 並び続けること10分。


 ようやく、お兄ちゃんの姿が見え始めた。
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