白雪姫に極甘な毒リンゴを
「六花、決まった?」
「う~ん。 チョコにしようかな……
マロンも気になるし、イチゴもおいしそう」
「そうじゃなくて、
誰に接客してもらうかってこと」
そ……そっち?
壁に、今日お店にいる店員さんの
顔写真が貼ってある。
お兄ちゃんと十環先輩以外に
あと二人の店員さんがいるみたい。
「さくらさん、って人にしようかな。
女性は店長さんとこの人だけでしょ?」
「は?
なにもったいないことしようとしてるの?
一颯先輩が、
ジェラートすくってくれるんだぜ。
他の人を指名する
六花の気持ちがわかんない」
「私だって、
お兄ちゃんに接客して欲しい
紫音くんの気持ちがわからないよ」
そんな低次元な言い合いをしているうちに、
私たちが注文する番が回ってきた。
「いらっしゃいませ。
店員のご指名はございますか?」
店長と書かれた名札を付けた、
40歳くらいの女性が、
ニコニコしながら聞いてきた。
「え~と さ……さくらさ・・・・・」
「店長、こいつ、俺の妹なんで」
私の言葉を遮って、
お兄ちゃんが店長さんに話しかけた。
「六花、俺でいいんだよな?」
そんな圧を掛けられたら、
お兄ちゃん以外がいいなんて、
言えません。
な……なんで?
他のお客さんには、
アイドルがファンに向けるような
飛び切りの笑顔を向けていたのに、
今私、睨まれたんですけど……
お兄ちゃんもお客さんの視線に
ハッとした様子で、
急に笑顔を作った。
それでも、
私にムリヤリ笑顔を作っているよね?
目の奥が、泥沼のように濁っていますよ。
「ジェラートは、何にいたしますか?」
お兄ちゃんが、
私に敬語でしゃべっている。
しかも笑顔で。
人生で初めて、
立場が逆転した気がして、
嬉しくてフフフと笑ってしまった。
「じゃあ、チョコでお願いします」
「はい、かしこまりました」
お兄ちゃんは無言で、
ジェラートをコーンにのせ、
私に手渡してくれた。
ジェラートが並べられた
ガラスケース横のカウンターに、
無料券を置いた。
それと、これも渡さなくちゃ!