【現代異類婚姻譚】約束の花嫁 ~イケメン社長と千年の恋~
鬼嶋の家で百合が週末を過ごすようになってからの二人の儀式のようなもの。
二人で過ごす夜、二十三時を回る頃、鬼嶋は決まってリビングのソファの上で百合を軽く抱きしめて言ったものだった。
『おやすみ、百合……。いい夢を』
あくまで紳士的に、欲望の片りんさえ見当たらない余裕の表情を浮かべながら、鬼嶋は百合の身体に回した腕をいつもふいと解いてしまう。
はじめの頃、百合はそれが不思議でならなかった。
大昔ならいざ知らず、今時つきあっている男女が夜にベッドをともにしないなんてことがあるだろうか?
優しく穏やかでいつもさり気なく自分のことを気遣ってくれる鬼嶋を百合は心から愛しはじめていた。
週末を共に過ごすようになって間もない頃、二人でハイキングに行った時のことだ。
慣れない登山用の靴で靴擦れを起こしてしまったことを、百合は中々言い出せずにいた。
急に乱れたペースを不審に思った鬼嶋は、百合に足を見せるように言い、やや強引に靴を脱がした。
白い足に浮き出た痛々しいすり傷に眉をしかめながら、鬼嶋は救急セットを取り出して応急処置をはじめた。
「すぐに下山しよう。これ以上歩くのは傷によくない」
「でも……せっかく来たのに」
せっかくの休みに朝早くから弁当を作って出てきたというのに……手当もしてもらったことだし、自分がもう少しの間我慢すればいいことだと百合は思った。
「君に無理をさせたくない」
渋る百合に対して鬼嶋はキッパリと言い放った。
「俺といるときは無理なんてしないでくれ。君にはほんの少しでも辛い思いなんてしてほしくない」
その時の鬼嶋の真っすぐな瞳を思い出すたび、百合は心の中がほんのりと温かくなるのを感じるのだった。
鬼嶋を信じているからこそ、二人が名実ともに夫婦となる時を待とう――心から、百合はそう思った。
二人が正式に結ばれた夜――。
二十三時を回っても、鬼嶋は百合を強く抱きしめて離さなかった。
リビングのソファの上、膝の上に抱えられるようにして後ろから鬼嶋に抱きしめられたまま、もうどれくらいの時間が過ぎたのか、百合には見当もつかなかった。
「き、鬼嶋さん……」
自分の名を呼ぶ百合の唇を鬼嶋の長い指が愛おし気につっとなぞる。
「百合、……愛してる」
百合の顔を覗き込むようにして鬼嶋はふっくらとした唇に軽くキスを落とした。
そのまま、何度も唇を重ねるたびに口づけは次第に長く、激しさを増していく。
鬼嶋の大きな手が百合の頬を撫ぜ、首筋を這い、柔らかな胸元へ差し入れられる。
「んっ……」
羞恥に身をよじる百合の首筋に鬼嶋が軽く歯を立てると、堪えていた甘い吐息が百合の唇から漏れた。
その声を聞いた瞬間、鬼嶋の呼吸が荒くなり、ゆるやかだった動きが激しさを増した。
風呂上がりのバスローブがはだけ、火照った肌同士が密着すると二人の身体はどうしようもないほどに熱を帯びていく。
「……ここではいけない。寝室へ……」
苦し気な声で呟くと、鬼嶋は軽々と百合を抱き上げ、階段を上り寝室に入るとベッドの上に優しく横たえた。
ギシリ、とベッドが軋む音と共に鬼嶋が横たわる百合の上に覆いかぶさってくる。
月明かりだけが差し込む薄暗い部屋。
優しく百合の首筋に口づけを落としながら、鬼嶋はすでに乱れたバスローブを片手でいともたやすくはぎ取ってしまう。
全てを鬼嶋にさらけ出してしまった百合は恥じらいに頬を染め、そっと瞳を閉じた。
「……百合」
荒い息を吐きながら鬼嶋が百合の名を呼んだ。
「あいしてる……」
切なげ声音で囁かれたその一言に、百合は閉じていた瞳を開けて鬼嶋を見つめた。
――月の光? 鬼嶋さん、とても綺麗……。
窓辺から降る月光のせいなのだろうか。鬼嶋の髪の輪郭がほんのりと金色に光っているように見える。
陶然とした百合の唇に再び鬼嶋の唇が重なった。
長い口づけが終わった後、かき抱くように百合を抱きしめる鬼嶋の瞳が闇の中で妖しく金色に光っていた。
二人で過ごす夜、二十三時を回る頃、鬼嶋は決まってリビングのソファの上で百合を軽く抱きしめて言ったものだった。
『おやすみ、百合……。いい夢を』
あくまで紳士的に、欲望の片りんさえ見当たらない余裕の表情を浮かべながら、鬼嶋は百合の身体に回した腕をいつもふいと解いてしまう。
はじめの頃、百合はそれが不思議でならなかった。
大昔ならいざ知らず、今時つきあっている男女が夜にベッドをともにしないなんてことがあるだろうか?
優しく穏やかでいつもさり気なく自分のことを気遣ってくれる鬼嶋を百合は心から愛しはじめていた。
週末を共に過ごすようになって間もない頃、二人でハイキングに行った時のことだ。
慣れない登山用の靴で靴擦れを起こしてしまったことを、百合は中々言い出せずにいた。
急に乱れたペースを不審に思った鬼嶋は、百合に足を見せるように言い、やや強引に靴を脱がした。
白い足に浮き出た痛々しいすり傷に眉をしかめながら、鬼嶋は救急セットを取り出して応急処置をはじめた。
「すぐに下山しよう。これ以上歩くのは傷によくない」
「でも……せっかく来たのに」
せっかくの休みに朝早くから弁当を作って出てきたというのに……手当もしてもらったことだし、自分がもう少しの間我慢すればいいことだと百合は思った。
「君に無理をさせたくない」
渋る百合に対して鬼嶋はキッパリと言い放った。
「俺といるときは無理なんてしないでくれ。君にはほんの少しでも辛い思いなんてしてほしくない」
その時の鬼嶋の真っすぐな瞳を思い出すたび、百合は心の中がほんのりと温かくなるのを感じるのだった。
鬼嶋を信じているからこそ、二人が名実ともに夫婦となる時を待とう――心から、百合はそう思った。
二人が正式に結ばれた夜――。
二十三時を回っても、鬼嶋は百合を強く抱きしめて離さなかった。
リビングのソファの上、膝の上に抱えられるようにして後ろから鬼嶋に抱きしめられたまま、もうどれくらいの時間が過ぎたのか、百合には見当もつかなかった。
「き、鬼嶋さん……」
自分の名を呼ぶ百合の唇を鬼嶋の長い指が愛おし気につっとなぞる。
「百合、……愛してる」
百合の顔を覗き込むようにして鬼嶋はふっくらとした唇に軽くキスを落とした。
そのまま、何度も唇を重ねるたびに口づけは次第に長く、激しさを増していく。
鬼嶋の大きな手が百合の頬を撫ぜ、首筋を這い、柔らかな胸元へ差し入れられる。
「んっ……」
羞恥に身をよじる百合の首筋に鬼嶋が軽く歯を立てると、堪えていた甘い吐息が百合の唇から漏れた。
その声を聞いた瞬間、鬼嶋の呼吸が荒くなり、ゆるやかだった動きが激しさを増した。
風呂上がりのバスローブがはだけ、火照った肌同士が密着すると二人の身体はどうしようもないほどに熱を帯びていく。
「……ここではいけない。寝室へ……」
苦し気な声で呟くと、鬼嶋は軽々と百合を抱き上げ、階段を上り寝室に入るとベッドの上に優しく横たえた。
ギシリ、とベッドが軋む音と共に鬼嶋が横たわる百合の上に覆いかぶさってくる。
月明かりだけが差し込む薄暗い部屋。
優しく百合の首筋に口づけを落としながら、鬼嶋はすでに乱れたバスローブを片手でいともたやすくはぎ取ってしまう。
全てを鬼嶋にさらけ出してしまった百合は恥じらいに頬を染め、そっと瞳を閉じた。
「……百合」
荒い息を吐きながら鬼嶋が百合の名を呼んだ。
「あいしてる……」
切なげ声音で囁かれたその一言に、百合は閉じていた瞳を開けて鬼嶋を見つめた。
――月の光? 鬼嶋さん、とても綺麗……。
窓辺から降る月光のせいなのだろうか。鬼嶋の髪の輪郭がほんのりと金色に光っているように見える。
陶然とした百合の唇に再び鬼嶋の唇が重なった。
長い口づけが終わった後、かき抱くように百合を抱きしめる鬼嶋の瞳が闇の中で妖しく金色に光っていた。