【現代異類婚姻譚】約束の花嫁 ~イケメン社長と千年の恋~
ツナマヨの君……。
偶然コンビニで遭遇したイケメンのことを百合は密かにそう呼んでいた。
あれから二週間、例のコンビニに行く度「もしかしたらまた会えるんじゃないか」という淡い期待に胸を高鳴らせていた百合だったが、ついにそんな日は訪れなかった。
「それはそうよね~」
恐らく海外ブランドの、もしかしたらオーダーメイドの、シャドーストライプ入りの高そうなネイビーのスーツ。
あの時はたまたま立ち寄っただけで、彼はどう見ても常日頃から昼食をコンビニで調達しているような人種には見えなかった。
ハイレベルなイケメンとの遭遇というちょっとした事件も、忙しい毎日にかまけているうちにいつしか記憶の隅に押しやられてしまった。
決算期を前にして仕事は加速度的に忙しくなっていき、だんだんとツナマヨの君の姿かたちもおぼろげになってきたある日。
短い昼休憩にふとチェックした新着メールに百合の目は釘付けになった。
――面接確約:秘書経験者募集、優良ベンチャーの社長秘書業務
以前登録していた転職サイトの求人案内だ。
「秘書案件……珍しい」
地方にある空き物件をリノベーションしていわゆるノマドワーカーや地方移住者に賃貸しするのが事業の柱であるらしい。
企業ホームページには、モダンな別荘風、老舗旅館のような風情のある古民家風の物件がいくつも並んでいる。
木肌をそのまま生かした施工例は親しみやすく見ているだけで癒されるようなデザインばかりだ。
――いいなあ、こんな家、住んでみたい……。
自然豊かな、どちらかといえば田舎で育ったためか、都会で働きながらも、百合には四季の移ろいが肌で感じられるような環境への憧憬があった。
緑の少ない東京の街中、朝、マンションから最寄り駅に向かい、人波に揉まれて都心の駅で降りた後は空調が完璧にコントロールされたビルの中で働き、日が暮れてから家に帰る……。
季節の移ろいを感じる暇もないそんな毎日の繰り返しに何となく疲れていたのかもしれない。
――ダメもとで、行ってみようかな……。
メールを見ながら、あれこれと考えを巡らせている最中に社用携帯がけたたましく鳴り響く――部長からだ。
「っはい! ……如月です」
電話一本で休憩時間は強制終了――いつものとおり慌ただしい午後が始まろうとしていた。
※※※
スーツよし、メイクよし、靴、鞄もこれでOK……。
――準備はばっちり。落ち着け、私……!
久しぶりの面接を前に緊張しながらも、百合はトイレの鏡に向けてニッコリと笑顔を作ってみせた。
何のかんのといっても秘書業務は上司との相性が肝心――。第一印象が全てを左右してしまう。
相手に媚びる必要はない、でも、「仕事のしやすそうな相手だ」と思ってもらうのに越したことはない。
前髪をちょいちょいと直してから、時計を見ると約束の時間まであと10分――。
――よしっ、行くか!
化粧ポーチを鞄にしまうと百合は意気揚々と歩き出した。
面接を受ける企業が入っているこじゃれた新しいビルにはほかにも名だたるベンチャー企業が入居している。
さきほどエレベーターですれ違った人々もカッチリとしたスーツ姿ではなく、遊び心のあるオフィスカジュアルといった風情で百合が勤める大手商社とは雰囲気が異なる。
受付にある電話でで面接に来たことを告げると間もなく、ジャケットにシャツ、ネクタイは着けていない二十代中ごろといった年頃の男性社員がロビーにやって来た。
スポーツでもやっていたのだろうか。背が高く体格がいい。
ヘアワックスでかきあげられた茶髪の髪が少々やんちゃな雰囲気を醸し出している、さわやか系のイケメンだ。
「お待たせしました。このまま社長室にお進みください」
――え、イキナリ? 社長との面接なの――?
さすがに、最初は人事担当者が一次面接をするものだと思っていた百合は内心慌てた。
「社長、応募者の方をお連れしました――」
偶然コンビニで遭遇したイケメンのことを百合は密かにそう呼んでいた。
あれから二週間、例のコンビニに行く度「もしかしたらまた会えるんじゃないか」という淡い期待に胸を高鳴らせていた百合だったが、ついにそんな日は訪れなかった。
「それはそうよね~」
恐らく海外ブランドの、もしかしたらオーダーメイドの、シャドーストライプ入りの高そうなネイビーのスーツ。
あの時はたまたま立ち寄っただけで、彼はどう見ても常日頃から昼食をコンビニで調達しているような人種には見えなかった。
ハイレベルなイケメンとの遭遇というちょっとした事件も、忙しい毎日にかまけているうちにいつしか記憶の隅に押しやられてしまった。
決算期を前にして仕事は加速度的に忙しくなっていき、だんだんとツナマヨの君の姿かたちもおぼろげになってきたある日。
短い昼休憩にふとチェックした新着メールに百合の目は釘付けになった。
――面接確約:秘書経験者募集、優良ベンチャーの社長秘書業務
以前登録していた転職サイトの求人案内だ。
「秘書案件……珍しい」
地方にある空き物件をリノベーションしていわゆるノマドワーカーや地方移住者に賃貸しするのが事業の柱であるらしい。
企業ホームページには、モダンな別荘風、老舗旅館のような風情のある古民家風の物件がいくつも並んでいる。
木肌をそのまま生かした施工例は親しみやすく見ているだけで癒されるようなデザインばかりだ。
――いいなあ、こんな家、住んでみたい……。
自然豊かな、どちらかといえば田舎で育ったためか、都会で働きながらも、百合には四季の移ろいが肌で感じられるような環境への憧憬があった。
緑の少ない東京の街中、朝、マンションから最寄り駅に向かい、人波に揉まれて都心の駅で降りた後は空調が完璧にコントロールされたビルの中で働き、日が暮れてから家に帰る……。
季節の移ろいを感じる暇もないそんな毎日の繰り返しに何となく疲れていたのかもしれない。
――ダメもとで、行ってみようかな……。
メールを見ながら、あれこれと考えを巡らせている最中に社用携帯がけたたましく鳴り響く――部長からだ。
「っはい! ……如月です」
電話一本で休憩時間は強制終了――いつものとおり慌ただしい午後が始まろうとしていた。
※※※
スーツよし、メイクよし、靴、鞄もこれでOK……。
――準備はばっちり。落ち着け、私……!
久しぶりの面接を前に緊張しながらも、百合はトイレの鏡に向けてニッコリと笑顔を作ってみせた。
何のかんのといっても秘書業務は上司との相性が肝心――。第一印象が全てを左右してしまう。
相手に媚びる必要はない、でも、「仕事のしやすそうな相手だ」と思ってもらうのに越したことはない。
前髪をちょいちょいと直してから、時計を見ると約束の時間まであと10分――。
――よしっ、行くか!
化粧ポーチを鞄にしまうと百合は意気揚々と歩き出した。
面接を受ける企業が入っているこじゃれた新しいビルにはほかにも名だたるベンチャー企業が入居している。
さきほどエレベーターですれ違った人々もカッチリとしたスーツ姿ではなく、遊び心のあるオフィスカジュアルといった風情で百合が勤める大手商社とは雰囲気が異なる。
受付にある電話でで面接に来たことを告げると間もなく、ジャケットにシャツ、ネクタイは着けていない二十代中ごろといった年頃の男性社員がロビーにやって来た。
スポーツでもやっていたのだろうか。背が高く体格がいい。
ヘアワックスでかきあげられた茶髪の髪が少々やんちゃな雰囲気を醸し出している、さわやか系のイケメンだ。
「お待たせしました。このまま社長室にお進みください」
――え、イキナリ? 社長との面接なの――?
さすがに、最初は人事担当者が一次面接をするものだと思っていた百合は内心慌てた。
「社長、応募者の方をお連れしました――」